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体を清めて着替えた後、まず冷房のスイッチを入れてから携帯電話を確認した。ノゾミの予想が当たっていれば、母は今頃相当怒っているはずだ。
「うわ、すご……」
不在着信が8件に、未開封のメールが4件。全て母からだ。夏休みだからといって昼まで寝ていたと知ったら、しつこく小言を言われるに違いない。
ここは携帯電話の充電がなくなっていたことにして、返信のメールを送っておいた。
そしてやっと一息ついたノゾミは、ひとまずベランダに出て今日の行動範囲を定めることにした。もう飽き飽きしてしまう程何日も続いている晴れた空の元、ノゾミは手すりに寄りかかって上を見上げる。
「こうやって空を見てたら、ミコトが歩いてきてくれたりしないかな……」
雲ひとつない青空の真ん中で、真っ白な太陽がきらめいている。その眩しさに顔をしかめ、何も収穫が得られないことを確認してから、ノゾミは部屋に戻っていった。
部屋はまだ暑く、完全に冷えるにはまだ時間がかかりそうだ。冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取り出すと、コップに空ける手間すら惜しんでがぶがぶと喉へ流し込む。
すると体とともに頭も冷えていき、徐々に考え事をするのに適した脳へと変わっていく。
(ミコトが行きそうな場所、あったかな……俺まだアイツのこと何にも知らないし)
それが分かれば、うんと効率が良くなるはずだ。だが、ミコトの好き嫌いもまだ判明していない。そんな状況で当てになる場所など――――
「あっ……」
記憶の糸をたぐり寄せた先に一つだけ、あることが閃いた。
「あいつ、字が読めないって言ってたな」
病院でノゾミが課題図書を読んでいた時も、興味津々で字の読み方を尋ねてきた。それでもし、字を学ぶことを好きになっていたのなら、行きたいと思う場所も自然と限られてくるのではないだろうか。
「もしかして……図書館、とか……?」




