2-8-1 次の場所は
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「ぅう……背中痛ぇ」
翌朝ノゾミが目を覚ましたのは、自宅の玄関だった。帰ってくるなり力尽きたノゾミは、巻いていたゼンマイが切れたかのようにぱたりと倒れ込んでしまったのだ。お陰で体中が軋むように痛い。
「つーか、臭ぇ……」
もちろん、日中汗にまみれた体を洗う余裕もなかったので、はっきり言ってその体は汗臭かった。
シャワーでも浴びようと思い起き上がるが、足に思うように力が入らない。よろめきながら壁に手をつき、そのまま壁伝いにバスルームへと向かう。
「クソ、走っただけで筋肉痛とか、ありえない……」
二週間ろくに歩いていなかった体なのだから無理もないが、これでは今日の行動に支障をきたしてしまう。風呂から上がったら湿布でも貼っておこうと心に決め、一旦台所に寄った。
「ったく、本当に不便だよな」
ギプスを濡らすわけにはいかないので、風呂に入るのも一苦労だ。引き出しからビニール袋を引っ張りだして左腕にかぶせると、病院でもらったサージカルテープを巻き付けて水が入らないようにした。
体中がべたべたしていて早く風呂に入りたいのに、ノゾミの体は思うように動いてくれなかった。太腿から足の付け根が内側からじんじんと痛み、一歩踏み出すたびに膝がかくっと折れてしまいそうだ。さすがに昨日は体を酷使しすぎたようだが、今日だってミコトを探しに行きたいのだ。この調子では、また夜になってからでないと外に出られなさそうだが。
やっとの思いで脱衣所までたどり着いたノゾミは着ていた服を洗濯機に放り込むと、昨日ほったらかしにしてしまった洗濯物もそこに入れて、久し振りに洗濯機に仕事を与えた。
次にバスルームに入ったノゾミは、そこの小さいモニターに表示されていた時間を見て目を瞠る。
「うわ、もうすぐ昼じゃん」
どうやら十時間以上も眠っていたようだ。それもフローリング張りの玄関で。
どうりでこんなに背中が痛い訳だ。
深い溜息とともにシャワーコックを捻ると、冷たい水が噴き出した。午前の陽射しを取り込んで蒸していた部屋にいたので、それでも丁度良いくらいだった。先に冷房をつけておかなかったことを悔やんでいたら、だんだん水が温かくなってくる。
細い湯に打たれながら、ノゾミは思いを巡らせた。
(今日はどこまで行こうかな……でも体がもたないから、あまり遠くまでは行けないかもな)
それからもう一つ。ショウに出された宿題もあるのだ。恐らくそちらも難題だが。
ミコトに、何と言えば正解だったのか。
絞れる頭は全て絞っても、答えが見えそうにない。
ノゾミはこんがらがりそうな頭を掻きむしるように、シャンプーで泡立てた髪の毛をかき回した。