2-7-2
(帰るって言っても、なんかまだ帰りたくないな……)
友人と何気ない時間を過ごしている時、その場から離れがたくなるような、そんなものに似た気分だった。といっても友人と呼べる人はほとんどいないので、これはたとえ話に過ぎないが。
さっきのように警官に注意されることが無いとも限らないが、さすがに同じ場所に二度も来ないだろうと高を括って、公園内をぶらつくことにした。
ここは住宅街の中にある割にはそれなりの広さがあり、中央には小さな噴水も備えてある。もう時間が遅いので水は噴き出していなかったが、たまに落ちてくる葉っぱが水面を微かに揺らしていた。
「ここに来たのも、久し振りだな」
ノゾミは噴水の縁に腰掛けて、指先を水の中に入れてみた。
昔はよく弟と遊びに来ていたのだが、それはもう過去の記憶でしかない。仲の良かった家族は散り散りになってしまった。取り戻せないものを今更嘆いたところで、何の意味もない。
指先を冷やす水は冷たくて、どんなに長く浸っていても決してノゾミと混じり合うことはないのだと思うと、ただの水でも何だか意味のあるものに思えてきた。
「ミコトは今頃どうしてんのかな」
水面に映る自分に問いかけるように呟くが、当然ながら誰もその答えを知らない。
独りでどこかをさまよっているのだろうか。それとも、独りで景色を眺めているのだろうか。
そこまで考えて、ノゾミはあることに気が付いた。
「あいつは、いつも独りだったんだな……」
誰にも見えず、干渉できずにその長い命を生きてきたのだろう。独りでいるところはノゾミと似ていると思ったが、その時間が全く比にならない。今までに二人の命を救ってきた際に人間との接触はあるだろうが、ミコトの永遠のように長い命からすれば、それはほんの一瞬に過ぎないはずだ。
ならば同じ体質の自分なら、少しでも気が楽になるのではないだろうか。
(って、何考えてんだ俺は。早く死にたいって言ってんのに)
矛盾する気持ちに自らでさえも振り回される。それでも、いづれ死ぬにしても、ミコトを見つけられるのは自分だけなのだ。
「もっと探したいけど、もう限界かも……」
早くしなければならないと思うのに、体力はやる気に比例していなかった。その悔しさをどこにぶつければ良いか分からず、ノゾミは水の中で拳を握り締めた。




