2-7-1 別れ
公園に設置してある時計を見上げると、あと一時間程度で日付が変わってしまうところだった。
(え、これって、補導されんのかな……)
もうそんなに時間が経っていたのかという驚きと、退院した日に補導されたと母に知られたら何と言われるのだろうという恐怖が、ノゾミの元に訪れた。
ここはなんと言って切り抜けるべきか考えていると、ショウがすくっと立ち上がった。
「えー、お巡りさん、アタシ達高校生に見えますか?」
「そうじゃなかったら何に……もしかして、中学生!?」
いかにも新人といった雰囲気の警官は、途端に顔色を変えた。さすがに中学生はないだろ、と心の中で突っ込みを入れるが、ショウの言い方だと高校生より年下に思われても仕方が無い。
ショウに何か策があるというのならそれに任せるが、何をしようとしているのか全く読めない。
「もぅ、そうじゃないですよ。ほら、これ見てください」
ショウは持っていた巾着袋から何かを取り出すと、それを警官に見せた。ノゾミの方からはショウが何を手にしているのかは見えないが、警官は顔を近づけてまじまじとそれを眺めている。
すると、警官の口から思わぬ言葉が出てきた。
「学生証? これは……あぁ、T大学の学生さんだったのか」
(大学!?)
大学生なら深夜に出歩いていても補導の対象にはならないが、今までショウとは同い年だと思っていたので面食らってしまった。
「二人とも大学生なんだね。それならいいけど、あまり遅くまでふらついていたら危ないからね」
「はーい、今帰ろうと思ってたところなんです。お巡りさんも、お疲れ様です」
愛想よく警官に手を振って見送った後、ショウは手に持っていたものを再び巾着袋にしまった。ノゾミは慌てて立ち上がると、ショウに真相を迫る。
「お前、大学生だったのか?」
「えっ、こ、これはアタシのじゃなくて……えっと、お姉ちゃんの学生証なの」
「お姉ちゃん?」
「そ、そう。アタシ、お姉ちゃんとそっくりだから。今日は間違えて、お姉ちゃんの巾着持ってきちゃったんだけど、結果オーライね」
急に喋り方がしどろもどろになってしまったショウに怪訝な視線を送るが、ショウは気まずさをごまかすかのように、パンと手を叩いた。
「そうだ! アタシもう帰らなくちゃいけないんだ。それじゃ、またね!」
「え、ちょっと……」
ショウは踵を返すと、下駄の音を高らかに鳴らして走り去ってしまった。
「どうしたんだろ」
まだ気になることは残るが、もう行ってしまったのだから仕方が無い。ノゾミも、今日の所はこれで切り上げて家に帰ることにした。