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2-6-5

「…………」

 その瞬間、冷たく突き放されたような気がして、ノゾミは黙り込んでしまった。

 月が雲に隠れ、静かな暗闇が二人を包み込む。ノゾミの方から何か言うべきか悩んだが、墓穴を掘ってしまう気がしたのでやはり何も言えなかった。


 しばらくして、ショウの方からそれを切り出した。

「ねえ、和歌って知ってるでしょ」

「え、うん……」

(ん? 何でいきなり和歌なんだ)


 脈絡のない話題に少し戸惑ったが、ショウは至って真面目な口ぶりだ。だが、和歌が一体今の話にどう関係しているというのだろう。

 ショウは、自らが和歌を好きだと前置きしてから、ノゾミに語りかける。

「昔の人はね、綺麗なものを見た時、感動した時、悲しいことがあった時や、誰かに想いを伝える時、和歌を詠んだの」


 それは、どこかに思いを馳せるかのような声だった。

「でもね、紀貫之は、和歌の真髄は人の心である、って古今和歌集の仮名序に書いたの。アタシもその通りだと思ってるわ。大事なのは心の動きだって」

 ショウは和歌に相当の思い入れがあるらしく、まるで自身に言い聞かせるように、丁寧に言った。


 和歌と言えば、授業で習ったこと程度しか記憶に残っていない。そこまで真剣に和歌のことを考えたことのないノゾミにとって、ショウの言葉はやけに神妙に聞こえた。

「アンタにはさ、ちょっと足りないところがあると思うんだよね」

「足りない、ところ……」


 何だろう。逆に思い当たる節が多すぎる。

 やる気は無い、人脈も広く無い、他人に興味が無い、自分に興味が無い。そして生きる気力も無い。

 これ以上足りないところが増えてしまえば、きっと自分はは穴だらけになってしまうだろう、とノゾミは思うのだった。

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