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「俺さ、こないだ事故に遭って、それである子に助けてもらったんだ」
「じゃあ、そのギプスって……」
「ああ。でも、俺は本当は助からなくていいって思ってたんだ」
「そう」
ショウは意外にもあっさりとノゾミの話を受け入れてくれる。それが、ノゾミの口調を軽やかにした。
「それで、助けた子はその事を気に病んでたみたいだから、あまり思い詰めてほしくなかったんだけど、俺には人の励まし方とか分かんなくて……」
「アンタは、何て言ったの?」
その言い方が尖ったように聞こえて、ノゾミは何かまずいことを言ったのだろうかと逡巡する。だが、会話の間にせかされているようだったので、次の言葉に託すことにした。
「俺のことはいいから、外の空気でも吸ってきたらどうだ、って。アイツがこれ以上俺のそばに居ても悪循環だと思ったし」
ショウは、どんな顔で聞いているのだろう、と思いそちらへ視線を向ける。すると、なぜか不機嫌そうな表情が、ノゾミの眼に映った。
「本当にそれだけ?」
「え、あとは確か……俺なんかに構わなくていい、って」
「それでその子が出て行っちゃった、ってことね」
ショウにどこか気迫がある感じがして、ノゾミはそれ以上言葉を紡ぐのを止めた。
その時、急にさっきまで大人しかった風が騒ぎ始める。真っ黒な木々がざわざわと囁き、途端に辺りの静寂が目立つようになった。
「アンタってさ、人の心とか分かんないの?」




