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「そ、それは猫を探しに……」
確か昼間、適当にそんなことを言ったな、と思い出しながら答えた。だがショウも相当勘が良いようだ。
「ねぇ、それって、本当に猫を探してたの?」
「な、なんでそんなこと……」
思わずぎくっとして声が震えてしまった。これではあからさまに、嘘をついていたことを肯定しているようなものだ。
「だって、猫みたいに気まぐれな動物を探すなら、チラシを作って貼るなり配るなりした方が効率的だわ」
確かに、ショウの言うとおりだ。もう少し巧妙な嘘をつけば良かったと後悔する。
もしかしたら自分には人を欺く能力が無いのかもしれない。人には向き不向きがあるというが、どうやら自分は嘘をつくことには向いていないようだ。
それでは自分は何に向いているのだろうと考えたところで、自嘲気味に心の中で呟いた。
(俺に向いてることなんて無いじゃないか)
「はぁー」
「どうしたの? 溜息なんかついちゃて。そんなに女の子に助けられたのが嫌だった?」
「そうじゃない、助けてくれたことには感謝してる。でも、俺は嘘を付くのが苦手なのかなーって思って」
「別にそれって、悪いことじゃないと思うわ。確かに嘘にも善し悪しがあると思うけど、嘘がつけないって、アンタが素直すぎるってことじゃない?」
「え……」
突然思ってもみなかったことを言われて驚いてしまった。素直だなんて言われたのは、初めてだったから。
だがノゾミが言いたかったのは、性格ではなく言葉の問題だ。
「俺が言いたいのはそういうことじゃなくて……人を騙す口実を作るのが下手っていうか」
「あのね、人に嘘をつくっていうことは、つかれた人の中でアンタの評価が変わるってことなの。分かる?」
何となく、分かるようで分からなかったので、ノゾミは首をかしげた。するとショウは、まるで親が子供に物語を読み聞かせるかのように、優しい声で言った。
「例えば、アンタがお母さんにテストで百点取ったって言うとするでしょ。本当は八十点なのに。でもその時から、お母さんの中ではずっと百点を取ったアンタが生き続けるってことなの。そういうのに堪えられないんじゃないかな、ノゾミは」




