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2-5-4

 この世界が、全ての人にとって生きやすい場所とは限らない。人が社会に合わないのか、はたまた社会が人に合わないのか。いづれであっても、少なくともノゾミにとって生きやすい世界ではないことは確かだ。

「はぁー、次はこっちか」

 ノゾミは溜息をつきながら、さっきは通らなかった路地へと足を踏み入れた。ここは大通りとは違って、様々な臭いで充満している。酒や煙草、香水が混じったような、不快なものだ。


「どうしよ、こっちで合ってんのかな」

 ノゾミは躊躇いつつも歩みを進めていく。大通りから少しそれただけなのに、そこは薄暗く、明らかにノゾミには場違いだった。


 細い道を進んでいくと、前から二人組の男が歩いてきた。何やら大きな声で話をしていて、ノゾミには気付いていないらしい。

 ノゾミは体を小さくしてすれ違おうとするが、生憎にも道幅が狭いため三人が通るのは厳しそうだ。

「ッ、済みません」


 案の定ノゾミの肩は片方の男の腕に当たってしまう。避けようとすらしなかった男に少し腹が立ったが、事を荒らげるのは嫌だったので、不本意ながらも謝っておいた。

 そそくさとその場を立ち去ろうとしたノゾミの腕を、ぶつかった方の男が掴んだ。


「ちょっと待てよ、お前一人か?」

「は、はい……」

 二人は若く、ノゾミと十も年が離れていなさそうだった。今ノゾミの腕を掴んでいる方の男は、金髪で耳にはいくつもピアスを開けていた。もう片方は一見大人しそうだが、かなり背が高い。

「何か用ですか?」

 謝ったのだから、ここは素直に見逃してほしかった。


「夜にこんなところを一人で歩いてたら、危ないんじゃねェの」

「だから、それは謝ったじゃないですか」

 そもそも二人で歩いていたそちらが一列になってくれれば済んだ話だ。ノゾミは思わず言い返してしまったが、男が言っていたのはそういう意味ではなかったらしい。


「そっちじゃねーよ。こんなトコ、ガキが一人で居るような場所じゃねーってことだ。誰に何されるか分からないぜ」

「何の話ですか」

 男の言っている事がよく分からない。困惑したノゾミは背の高いの男を見るが、彼は金髪の男を止める訳でもなく、ただその様子を見守っている。

「分からないなら、教えてやってもいいけど」

「――っ!」


 急に腕をぐい、と引っ張られて男の胸に倒れ込んだ。

(あ、この人達はヤバイ……)

 そう気付いた瞬間、全身の血の気が引いていくのが分かった。

 本能的な恐怖がノゾミを襲う。


「あ、あの…………」

 その時初めて気付いた。人は本当に恐ろしくなると、声すら上げられなくなるのだと。

 何度も口を開けたり閉じたりしていると、ついにノゾミの腰に男の手が伸びてきた。

(もう、ダメだっ)

 堪えきれなくなってぎゅっと目を瞑る。その時――――


「何してんのよ、こっち来て!」

 脇道から聞き覚えのある声がして、もう片方の腕を強く引かれた。

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