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「ミコト、ミコトーーッ!」
空はもう真っ暗で、街の明かりだけが異様に明るい。こんなに人工の光が溢れていては、星の一つも見ることができない。ノゾミは走りながら空を見上げる。ミコトは空を歩くことができるから、もしかしたらそこにいるのではないかと思ったから。
ノゾミが求める姿は見えなかったが、あの白くて長い髪の毛は、きっと目印になるはずだ。
夜は長いので、昼間探さなかった場所を重点的にあたるつもりだった。
「と、なると……こっちか」
そこは、人通りの多い繁華街。人が多い場所は苦手なので、昼間は避けていたのだ。夜になれば多少は静かになると思っていたが、昼とは違った様子で賑わっている。
「こんな場所に、いるのかな」
他の人には見えないので、人の多い少ないはミコトにはあまり関係がないのかもしれない。だが、ミコトがどんな所が好きなのか、それすらまだ分からないのだ。手当たり次第に探すしかかないだろう。
ネオンサインが揺らめくアーケードをくぐり、夜の街へと踏み出す。
昼間に開いている店の殆どが閉まっていたが、その代わり路地にあるバーやスナックが小さな看板を出していた。
「やっぱり、こんなとこには、いない……よな?」
どうやらここは居心地が悪いようで、ノゾミの足は自然と速まっていった。
小走りになりながら大通りを急いでいると、仕事帰りと思われるサラリーマンと何人もすれ違った。家に帰るのか、夜の店に入るのかはノゾミの知ったことではないが。
そんな人達を見送ってしばらくすると、再びアーケードが見えてきた。だがそれは、この繁華街の出口を表しているものだ。
「はぁ、もう一回戻るか」
ミコトどころか、少女が一人で出歩いている姿さえ見られなかった。いるのは、無表情でスマートフォンをのぞき込んだり、疲れた顔をしながら歩く大人ばかりだった。
そんなものを見ていると、こんな大人にはなりたくないと思うのと同時に、そんなに疲れてしまうなら大人になる前に、何もかも終わらせてしまえば楽になるのでは、という考えが浮かんできてしまう。




