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外に出るのは、日が完全に暮れてから。それでいて、気温が下がって走り回れるようになってからだ。
「九時くらいかな……」
時計を見て呟く。まだまだ時間はあるが、なぜか気持ちがはやってしまう。
やはりこの感覚には慣れない。何かを待ち遠しく思う気持ちが、こんなにも辛いものだとは。時が過ぎるのが、まるで亀の歩みのようにゆっくりなのだ。
今、ノゾミは自分が死ぬことにしか興味がない。逆に言えば、やっと自分のことにも興味が持てたのに、それは残酷なほどにノゾミを苦しめるのだった。
「どうして、こんな体になっちまったんだよ」
そんな嘆きを聞きとめてくれる人は居ない。
ひとえにミコトのせいだ、と言えばそれで片付くのだろうか。いや、違う。ミコトはただノゾミを助けようとしただけだ。善意で命を救ってくれた人に、そんな責任はないだろう。
では、一体誰のせい?――――
「クソッ、こんなこと考えてもどうにもならないだろ」
自らの思考を振り切るように頭を振る。早く死にたかったのなら、いつまでも躊躇っていないでさっさと死ねば良かったのだ。
(そうだ、これはミコトのせいじゃない)
時計を見上げるが、予定の時間まで一時間はある。余計な事を考えないようにと思い、食べ終わった後の食器を片付けるが、やはり気持ちが落ち着かない。
「あーもう、何だよこれ」
いつまで経ってもなかなか進まない時計にすら苛々する。全身がそわそわして、今すぐにでも行動を起こさなければならないのではないかという焦燥に駆られる。
「――ほんと、どうしちゃったんだろうな、俺」
全身から湧き上がる衝動を抑えきれなくなったノゾミは、とうとう部屋を飛び出したのだった。