2-5-1 夜の街へ
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「って、やっぱ無理かも……」
ノゾミは家に帰るなり靴も脱がずに玄関にへたり込んだ。
あれから町中を走り回って、探して、ミコトの名を叫んだ。それでも、手がかり一つ得られなかった。他の人には見えないミコトが、何か手がかりを残しているはずがないのだが、見つからないならせめてその形跡だけでもあれば良かったのに、と肩を落とす。
炎天下の中動き続けた体は、もう指一本動かすのも怠いほど疲弊していた。それでも母と写メ付きで近況報告することを約束してしまったノゾミは、ふらつく足取りでコンビニに寄ってサンドイッチを買ってから帰宅したところだ。日が長いため空はまだ明るいが、もうすぐ十九時になろうとしている。
部屋に上がると、まるでサウナのような暑さに驚いた。エアコンをつけてから出るべきだったと後悔する
が、もう遅い。設定温度を十八度まで下げて、一気に部屋を冷まそうと試みる。
「しまった。洗濯すんの忘れてた」
放り投げたままの鞄が、床に転がっていた。
だが今から洗濯機を動かすのも面倒だったので、明日に回すことにした。
「あれ、母さん掃除してくれたのかな」
よく見ると、二週間部屋を空けていたにも関わらず、埃が全く溜まっていない。ノゾミもあまり汚い部屋は好まないので、人並みに掃除はしていたのだが、入院前より綺麗になっている。世話焼きの母のことだ、もしやと思い冷蔵庫を開けてみる。
「やっぱり……」
冷蔵庫の中には二、三日ぶんのおかずが入っていた。作ってあるなら、そう言ってくれれば良かったのに。
だがこれも母の優しさだと思い直し、素直に受け取っておくことにした。サンドイッチを買ってしまったが、冷蔵庫の一番手前に入っていた肉じゃがと一緒に食べることにした。
「いただきます」
レンジで温めた肉じゃがとサンドイッチを携帯電話のカメラでとり、早速母に送る。タイトルは『ありがとう』にしておいた。
もくもくと食べていても、頭の中は空っぽではない。ミコトを探しに行くために、色々と考えながら食べていた。
(日が落ちたら、またアイツを探しに行く)
昼間は暑すぎて完全にバテてしまったが、夜ならばいささか涼しいはずだ。それに、ミコトの髪は真っ白だったから、暗い中の方が見つけやすいと思ったのだ。




