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「じゃあノゾミ君、お大事に」
「はい、有り難うございました」
ノゾミは、見送ってくれた看護師にぺこりと頭を下げた。母も、お世話になりましたと会釈をする。
長い二日間だった。まるで今までの十二日間と同じくらいの長さだったように感じた。
何かを待つというのは、こんなにも時が長く感じられるのだな、と痛感する。恐らく、何かが来るのにこれほどまでに痺れを切らしたことは無いだろう。
(そうだ、俺はミコトを探さなくちゃならない。早く死ぬために)
ミコトが心配だなんて言ってない。これはあくまでも自分のためだ。そう言い聞かせるが、どちらが本当の気持ちなのか、二つが混ざりすぎてもう区別できなくなっていた。
母が運転する車でノゾミの暮らすマンションへと送ってもらう最中も、そのことで頭が一杯だった。母が何やら小言を言っているが、全く頭に入ってこない。どうせ大した事ではないのだろうから、むしろ好都合だ。
2週間も外気に触れていなかったノゾミは、忘れてしまていった空気を思い出そうと、少し窓を開けてみる。
だが、もの凄い勢いで肺に流れ込んでくる風は予想以上に汚くて。夏のコンクリートで暖められた熱気は、車の排気ガスにまみれていて、ノゾミは思わずむせ返ってしまった。
急いで窓を閉めると、今度は車の冷房の風に包まれた。こちらの方が何倍も心地よい。
後ろに飛んでいく車窓の外を眺めながら、空ってこんなに眩しかったんだな、とぼんやり思う。まるで闇に取り込まれた自分を、そこから引き剥がされてしまいそうな程に、太陽の輝きが目にしみた。
ノゾミはそっと目を伏せ、まずどこからミコトを探に行くか思案するのだった。




