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「ったく、どこまで行ったんだミコトは」
今夜は帰らないつもりなのか、それともどこか休める場所を見つけたのか。
後者ならば何か言いに来ても良いのではないだろうか。ということは――
「あー、考えんのやめよ」
そもそも人と関わりを持とうとしないノゾミにとって、出逢って三日の者と分かり合おうとすること自体、身に余ることだったのかもしれない。
そう自分に言い聞かせることしかできなかった。
「今日はもう寝るか」
そう独りごちるが、消灯時間まではまだ少し時間がある。
心のどこかがもやもやしていて、とても宿題に集中できるような状態ではなかった。これではただの不貞寝だが、起きていてもこの不快さが収まるわけではない。こういう時は寝てしまうのが一番だ。
それでも何かに期待していたのだろう。ノゾミは一応窓を開けておくことにした。
(もしアイツが帰ってきたら、ここから入るかも。いや、別にちょっとぐらい帰ってこなくても心配とかしないし、アイツなら何とかできるだろ。俺はまだ病院から出られないし、今夜は暑いし)
まるで自分に言い訳をしているようだった。この行動に何か理由を付けておきたくて。でもそれは決して“ミコトが帰ってきた時のため”ではない。そう言ってしまったら、自分に負けるような気がしてしまったのだ。他人と関わらない、というポリシーを守り続ける自分に。
早々に寝支度を整えたノゾミは、布団に潜り込んで固く目を閉じた。
明日の朝には何かが変わっているかもしれない、と思う反面、どうせそんな期待は無駄だと諦めている自分がいる。だが諦めの方がノゾミには似合っている。大きすぎる期待は、外れた時のショックも大きい。そんな思いは、もうこりごりだった。
翌朝、まぶたの裏を焼くような朝日に起こされたノゾミは、ゆっくりと体を起こして部屋を見渡した。
開け放たれた窓から吹き込む風に、閉めていなかったカーテンがばさばさと打たれている。
だがそこに、ノゾミが求めていた姿は無い。
力なくうなだれたノゾミは、漏れる息と同化してしまいそうな程小さな声を上げたのだった。
「ほら、やっぱりな……」