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「あー、暇だ……」
入院してから何度目になるか分からない呟きを漏らした。暇だと口にしたところで暇でなくなる訳ではないのだが。むしろ何もやる気が起きないのだから、暇で良いのだ。
しばらくぼんやりとしていたら、窓の外が薄暗くなってきた。
ふとミコトのことが気になって窓の向こうへと視線を投げるが、高層ビルがひっそりと立ち並んでいるだけだった。
「宿題でもやるか」
彼女がいたら恐らくそう言うだろうと思い、少しだけ夏休みの課題をやることにした。
だがそのためには、ベッドテーブルに置いてある夕食をのせたトレーが邪魔だ。ノゾミは重い足を引きずってトレーを下げに行った。
数学のテキストとノートを開いてそれを眺めるが、手を動かさずして解けるような問題ではない。ノゾミは幾度もため息を吐きつつ、無傷の右手でペンを握る。
そういえば、こうしてペンを持つのは事故が起きて以来初めてだ。やる事がないと、どこまでもだらけてしまうのはノゾミの性分なのだが、時間が無駄だと思ったことはない。必要最小限の事しかやりたくないのだから。
そもそもこんな勉強何の役に立つんだ、と心の中で文句を言いながら、ノゾミは問題を進めていった。
「クソ、書きにくいな」
利き手ではないといえ、片手が使えないのは意外と不便だ。書くたびに紙が少しずつずれてしまうし、消しゴムで消す時など、ノートがくしゃくしゃになってしまう。
「ミコト、ちょっと抑えてて、くれないか……」
途中で彼女はまだ帰ってきていないのだと思い出し、その言葉は尻窄まりになってしまった。