2-2-1 慣れと不慣れ
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「ノゾミ君、今日の夕食ですよ」
「あ、ども……」
部屋に入ってきた看護師の声にはっとして、ノゾミは顔を上げる。
読書に没頭していたため気が付かなかったが、夕食が運ばれてきたということは、もう六時半を回っている頃だ。
(もうこんな時間か)
日が長いため、依然として空は明るい。ミコトもきっとノゾミと同じように、時が経つのを忘れてしまっているのだろう。
ノゾミはちょうど読み終わった本を閉じ、ベッドテーブルに置かれた食事に箸をつける。
「いただきます」
食事を運ぶのは、食事制限がある人のものを間違えないように看護師がやることになっていた。その代わり、自分で歩ける者は下膳を自身で行う。ノゾミはそれでいちいち部屋を出るのが面倒で仕方ない上に、大して腹も減らないので食べることへの興味も失せつつあった。
病院食は味が薄いとよく言うが、塩分たっぷりのカップ麺を主食としていたノゾミにとって、それはより顕著に感じられた。
「……今日はもういいや」
ご飯をお吸い物で流し込むと、それだけで満腹になってしまった。一日中ベッドの上で過ごしているのだから、腹が空くはずもない。
「ふぅー」
ノゾミは細く息を吐いて上半身の力を抜いた。すると体は勝手に倒れ、頭は柔らかい枕に包まれていく。
穴が開くほど見つめた天井が、いつもと変わらずノゾミの上に覆い被さっていた。




