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2-1-4

「ノゾ君……?」

「俺なんかに構わなくていい。それに、独りの方が読書に集中できる」

「あ……そ、そうですよね。僕が居たら、読書の邪魔ですよね。ごめんなさい気付けなくて」

 するとミコトは踵を返し、部屋の出口へと向かった。


「ミコト? 俺はそういう意味で言ったんじゃなくて……」

 だがノゾミの声に気が付かなかったのか、そのまま病室を出て行ってしまった。

 勝手に開いたドアを不審そうに見つめる看護師と目が合ったが、ノゾミは何事もなかったかのような顔でその場をやり過ごす。

「ま、いいか。暗くなれば帰ってくるだろうし」


 ミコトは、ノゾミを死なせるために協力するという大義名分のもとで行動を共にする事になった。

 なので彼女はいつもこの病室で一日を過ごし、夜になれば部屋の隅に座り込んで睡眠を取る。

 その姿を見て、せめてちゃんと休める所を探したらどうだと提案したこともあったが、彼女はこれも苦ではないと言ってノゾミの側を離れようとはしないのだ。


 そしてミコトと出逢ってからの三日間で、色々と分かった事がある。

 彼女は人間ではないが、心霊的な存在でもない。なので、人々が考える幽霊のように物質を通過することは出来ないのだそうだ。

 だが人間という定義に当てはまらない(ゆえ)、普通の人間との接触は出来ない。つまり、ノゾミ以外の人には見ることも触れることも出来ない、ということだ。


 更に、重力に(とら)われずふわふわと宙に浮くことも出来るが、彼女曰くそれは空間を歩いているのだそうだ。

 この世の命の集合体とも言える彼女には、命が存在する場所なら自由に移動出来る能力がある。それは、鳥が舞う大空や、虫が蠢く地中でさえも彼女の行動範囲の中に含まれることを意味している。

(そんな凄いやつがそばに居るなんて、実感湧かないな)

 何気なく空を仰ぐと、澄み渡る青が広がっていた。


「ミコト、どこまで行ったんだろう」

 晴れの日の空気を味わうならば、排気ガスや工場の煙が立ち込める都会の真ん中よりは、それさえも届かない雲の上の方が気持ち良いのだろうか。

「さっきは、ちょっと言い方がキツかったかな……」

 ミコトにはあまり悩んでほしくなかっただけなのだが、結果として追い出すような形になってしまった。


 ノゾミには、どうも他人の感情に疎い所がある。これまでろくに他人と関わっていなかったのでそれも当たり前なのだが、まさかそれに苦しめられる事になるとは。

「ミコトが帰ってきたら謝っとくか」

 さっき何と言えばミコトを励ませたのか、何と言えば誤解が生まれなかったのか。こればかりはノゾミ一人で答えが出せない。

 今ノゾミに出来るのは、本を読み進めることと、ミコトを待つことだけだった。


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