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「あ、ノゾ君、これは何と読むんですか?」
しばらく本を読み進めていると、またしてもミコトが字の読み方を問うてきた。
その指は〝雪〟を指している。
「これは〝ゆき〟って読むんだ」
ミコトは新しいことが学べて嬉しいのか、少し気分が高揚しているように見えた。
だが、こんな風に字を教えていると、まるでーー
「『妹ができたみたい』って、思ってます?」
「えっ……?」
心の中が読み取られたのかと思い、一瞬思考が停止してしまった。
「な、そんな訳ないし。それに、ミコトは見た目が妹でも、歳がとんでもなく離れてるだろ」
「うふふ、それもそうですね」
ミコトは楽しそうに顔を綻ばせた。
そして再び、ノゾミに質問を投げかける。
「ノゾ君には、ご兄弟はいるんですか?」
「…………」
その質問には答えたくなかった。
だが、ミコトの無垢な瞳に背中を押され、重い口を開く。
「弟がいたけど、父さんと母さんが離婚した時に父さんの方に行ったから、もう他人だ」
それを聞いた途端、ミコトはしゅんと肩をすぼめた。
「す、済みません。ノゾ君の事情も知らずに」
「別にいいけど、この話はまた今度な」
今はまだ、ミコトに話すようなことではない。ノゾミが死ぬためには必要ない情報だ。
ミコトはその後一言も喋らずに、ノゾミが本を読むのを見守っていた。
余計な事を言わないようにしているのだということが、手に取るように分かった。だが、あまりにもこちらに視線を寄せてくるので、ノゾミは耐えきれずに何か話題がないかと頭を回転させる。
「な、なあミコト。俺は死なない体になったんだよな」
「はい」
「じゃあ、この怪我も速攻で治ったりしないのか?」
ノゾミは左腕に巻かれたギプスを見つめて言った。