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2-1-1 すれ違い

「あ〜、暇だ……」

「お母様から宿題を渡されていたではないですか。それをやったらどうですか?」

「やる気が出たらな」

 ノゾミは枕に顔を埋めながら言った。

 胸から伸びるチューブが取れてから動きに制限がなくなり、ノゾミはこの三日ほどひたすら惰眠を貪っていた。

 と言っても、その前からやる事といえば寝て食べるだけだったのだが。


「でも、本を読むだけなら寝ていてもできるじゃないですか」

 ミコトは、ベッドテーブルにあった課題図書を差し出す。ノゾミは渋々起き上がってそれを受け取ると、ヘッドボードにもたれかかって本を開く。

 寝ながら読むのも良いと思ったが、寝落ちしないよう身を起こすことにした。ノゾミは、本は一気に読み終えてしまいたいタイプなのだ。

 早速本に目を落とし、そちらに意識を集中させる。


 だがしばらくすると、ミコトが横から顔を出してきた。

「ノゾ君、これは何と読むんですか?」

「え、これ?」

 逆に聞き返してしまったのは、ミコトが〝雨〟の字を指していたからだ。こんな小学一年生でも読めるような字を、なぜ問うのだろうか。


「〝あめ〟だけど……」

「これが〝雨〟っていうですね! 確かに、囲いの中の四つの点が、雨粒みたいですもんね」

 ミコトは嬉しそうに手を合わせて言った。

「あ、あぁ……そうだな」

 ノゾミは二重の意味で驚いていた。漢字ひとつでそこまで発想を膨らませることができるのか、というのが一つ。この程度の字の読み方を聞かれるとは思ってもみなかったのが二つめだ。


「ミコト、字が読めないのか?」

「はい……呆れましたか?」

 ミコトはきまり悪そうに視線を逸らした。

「いや、呆れたわけじゃ……」

「構いませんよ。僕は今まで、こうして文字を読む機会が無かったんです」

「そう、なのか」

「はい。人間の世界にいるのですから、話すことはできますけど、字はちょっと……」

 言われてみれば、ミコトは普通は人に見えない存在なのだから、読み書きができる必要はない。字が読めないのも道理だ。

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