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さあ、どうするムクロ。言い逃れはできないが。
「あれは……私の双子の兄でございます」
(いやいやいや、流石に嘘だってバレるだろ)
「――へー、そんな偶然あるんだね」
(って、信じるのかよ!)
キオが意外にもあっさりと信じ込んでしまったので、この場は難なく収まった。弟は素直だが人を疑うことを知らないのだ。これが吉と出ることもあれば、凶と出ることもある。
「あ、そうだ。おれは何でここに居るの?ノゾ兄の家?」
「ああ、俺の部屋だ。……えっと……俺の家に来たいって言ったの覚えてないか?」
「そうだっけ」
弟を騙すのは心苦しいが、彼を巻き込みたくはない。
「サユキさんはどうしたの」
「…………さぁ、どうしたんだろうな」
「何それ。サユキさんと一緒に居たんじゃないの?おれ何にも覚えてないんだけど……」
「仕方ないよ、お前あの人ん家で眠っちまったんだから。疲れてたんだろ」
「え〜。おれ、そんな事するかなぁ……」
昔から他人の迷惑になるようなことはしなかった弟は、なかなかノゾミの言葉を信じない。
「まぁまぁ弟クン。そんな細かいことは気にしなくて良いんじゃないかな」
そこへ口を挟んだショウが、彼女にしては珍しいことを言う。ショウならそんな言葉ではなく、理論で相手を納得させるものだと思っていた。
「そうだね。過ぎたことはどうしようもないか」
(やけに聞き分けがいいな……まぁ、そっちの方が助かるけど)
「はいっ、この話はお終いね。みんなお腹空いたんじゃない?朝ごはん作ってあるわよ」
「あ、ありがと……って、は!?」
「勝手に台所使わせてもらったわ」
「それは別に構わないけど」
お前料理出来たのか?
そんな疑問と、彼女の思いもよらない優しさに戸惑ってしまう。
「なに?アンタ達がずっと寝てるから暇潰しに作っただけよ。勘違いしないでよね」
「は、はあ……」
「分かったなら運ぶの手伝ってちょうだい」
フン、と鼻を鳴らして台所へ向かったショウの、ピンと伸びた背中を縋るように追いかけた。




