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「それで、キオは……? あいつはどこにいるんだ」
まさかとは思うが、助かっているなんてことはないだろう。あんなにひどい出血で、ノゾミが必死に叫んでも意識が戻らなかったのだから。今頃病院にいてもおかしくない。
「そのことですけど、弟さんは……」
はっきり言ってくれ。駄目だったならそうと言って、絶望のどん底に突き落としてほしい。期待が膨らみすぎない内に、早く。
「弟さんは……」
「ああ。キオは?」
「――隣のお部屋に……」
「リ、リビングに居るのか!?」
ノゾミは床を蹴り出して引き戸の取っ手に手をかけた。弟がどんな姿だろうと受け容れる覚悟もままならず、彼に会いたい一心で自室を飛び出した。
「キオ!!」
だが、そこに居たのは二人の人物。――ショウとムクロだった。
「なんでお前らがいるんだ、キオはどこだよ!?」
「ちょっと何よその言い草は!せっかく助けてあげたのに第一声がそれって酷いんじゃないの」
「落ち着いて下さいショウ様。ノゾミ様もあんな事があって混乱しておられるのです、ご令弟を心配なさるのも当然では?」
「アンタは甘いのよ、ムクロ!」
「ふ、二人とも静かにして下さい」
ミコトが声を潜めて言うと、二人はハッとしたように口を噤んだ。
「大丈夫ですよノゾ君。キオさんはちゃんとここに居ます」
ノゾミの前に回ったミコトが指したのはソファだった。こちらに背を向けているソファの正面へ行くと、キオはそこに横たえられていた。
背もたれの死角になっていただけだけで取り乱してしまうなんて。
「……助かったのか?」
「はい、私が傷口を塞いでおきました」
「ありがとな」
「お礼には及びません。今はまだ眠っておられますが、じきに目を覚ましますよ」
ムクロの言葉にほっとして、キオが眠るソファのひじ掛けに腰を下ろした。少し顔色が悪いが、規則的な寝息を立てて静かに眠っているのでひとまずは安心だ。
「もう、何よアタシだって頑張ったんだからね!」
「ああ分かってる。ショウにも世話をかけたな」
彼女は満足そうに頷くと、ソファの向かい側に正座をし、居住まいを正した。
「話はミコトから聞いたわ。今回のことはあの殺人鬼が全部悪かったんでしょ?」
 




