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残酷描写あります。
「ほら、ちゃんと見ててよ……僕が君を喰べるところ」
血溜まりの中からノゾミの足を取り上げると、サユキはその断面を見せつけてきた。
彼はもう、どこを狙えば上手く切り取れるか心得ているようだ。まるで医療画像のように、綺麗な切り口になっている。
「さっきも思ったけど、あんまり血が出ないんだね。死なないっていうからには当然か」
その間もノゾミは絶えず嗚咽を漏らしていた。いつの間にか溢れていた涙が床を濡らす。
「それじゃあ、いただきます――」
サユキの歯が、ノゾミのものを食い千切った。
口の周りを血でべっとりと汚しながら肉を頬張る。彼は久し振りのご馳走を目の当たりにした少年のように、一心不乱に喰べ続けた。
「ノゾミ君、あんまり筋肉付いてないね。もっと運動した方が良いんじゃない?このままでも十分美味しいけど、きっともっと美味しくなれるよ」
「は、ぁ……知…ぅか、よ…」
痛みのあまり肩で息をしながら、勝手なことを言うサユキにやっとの思いで歯向かうが、果たして彼に響いているのかは分からない。気が付けばふくらはぎの辺りまで喰われていて、ノゾミの足は見るも無惨な姿になっていた。
ノゾミの荒い息と呻き声、そしてサユキの咀嚼の音が反響する異様な空間に、もう人間は居ないようにすら思えた。
「あぁ、幸せだなぁ……最高の肉が、特別な、死なない体がここにあるんだ……」
サユキはうわごとのように言って、切り口を愛おしそうにそっと撫でる。だがそれはノゾミに耐え難い苦痛をもたらした。
「あっ、あァあ…ん、…っぐ、ぁあぁああ!」
(――俺、いつから間違えたんだろ……なんで、こんな……)
そもそも、自分がこんなに痛い思いをしなければならない理由は無い。傷付くのが嫌だから何事からも逃げてきたのに、死にそうなほど痛めつけられることになるなんて。
「ぃや…も、嫌だ……ッ」
血と涙と唾液でぐしゃぐしゃになった顔を歪め、全てを投げ出す覚悟で四肢の力を抜く。
「……して……こ、ぉして……」
「なぁに?ちゃんと言ってごらん」
「……殺してくれ……。もぉ、苦しいのは嫌なんだ……」
「へぇ」
肩眉を上げてにやりと笑うサユキの眼が揺らぐ。コユキがどこかで聞いているのだろう。
 




