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残酷描写あります。
「あ……ぁ、……」
全身が、恐怖に包まれていく。
今までに感じていたものは、恐れよりも怒りや困惑の方が大きかった。それが全て恐慌に置き換わる。
「遂にこの日が来たんだ。僕ね、こう見えて人を殺すのはちょっと怖いから、いつもはコユキが殺した人を捌いてるんだ。コユキは殺すのが好きなだけだから」
「ぃ、嫌…ぁ……やめ…っ」
「ノゾミ君、死なないんだよね。ならコユキがいなくても大丈夫」
「や、あ……来ん、ぁ…」
「生きた人の肉を喰べるなんて初めてだよ。きっと、すごく美味しよね。心配しないで、僕が綺麗に喰べてあげるから」
回らない呂律でみっともなく喘ぎながら、サユキから遠ざかろうとして必死に足を動かして後ずさる。だが思うようにいかなくて、虚しく床を蹴るだけに終わってしまった。慄く体は言うことを聞いてくれない。
「はぁ……、あはっ、嬉しいなぁ……。ノゾミ君の肉が喰べられる……」
幸せそうなため息をつきながら、サユキは斧を弄ぶ。あんなもので、一体どこを斬られるのだろう。
そう思った矢先、左の足首に荷重がかかった。
サユキが自身の足でノゾミのそこを押さえつけていたのだ。
「危ないから暴れないでね」
暴れないでいられるか。抵抗しないと、最後まで足掻かないと、この化け物に喰われてしまう。
「くッ」
七分丈のチノパンを膝上まで捲り上げられ、サユキがやろうとしていることをはっきりと自覚する。
「待っ、……」
だが無慈悲にもサユキの斧は振り上げられ――
「せめて良い声で哭いてね」
「――ッ!」
その一瞬だけは、辺りが静寂に包まれたようだった。
膝下に刃が食い込み、皮膚を、肉を、筋を、切断していく。
斧が床に達して初めて、ノゾミの悲鳴が声になった。
「ぁがぁああぁあ゛あ゛ぁ゛あぁあ!!!」
もうとっくに枯れたと思っていた喉から絞り出されたそれは、痛みに耐えるというよりも、自らの不遇な境遇を嘆いているように聞こえた。




