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多分残酷描写あります。
多分というのは、自分の感覚の中ではグロの内に入らないからです。
「あの人を殺したは良いけど、僕からしたら突然父親の死体が目の前に転がってる訳だから、子供だった僕は混乱した。そこで思ったんだ。『喰べてしまえば証拠は遺らないんじゃないのか』ってね」
彼はどこか遠くの過去に想いを馳せるようにうっとりとする。その目の焦点が合っていなくて、彼の心はここに無いのだと知る。
「それでね、喰べてみたらもう美味しくて。太腿の筋肉とか肝臓とか。でも、その時一番美味しいと思ったのが――」
そこでサユキは言葉を切って、ノゾミとの距離を詰めてきた。
またどこかを喰べられる。遠のきそうになる意識の端で、漠然と彼ならそうすると思った。
「……ぁ、ぅあ……っ」
額に手を置いて頭を床に押し付け、親指で右の上瞼を閉じないように押さえられる。抵抗する余裕もないノゾミの目に、サユキの顔が映った。
まだノゾミの血が残る彼の口が、開かれる。
「……え?」
彼が舌を伸ばした先はノゾミの眼球。見開かされた眼の表面だった。
(次は、眼か……?)
目玉を抉り出されたらどんなに痛いことだろう。きっとまた、あられもない叫び声を上げて転げ回ることになる。
痛いのは嫌いだ。だが、心が痛むより体が痛んだ方がマシだ。なるようになればいい。
「……ッ…、……」
サユキは下瞼の縁にゆっくりと舌を這わせていく。粘膜を舐められる感覚に、ノゾミは全身を震わせた。
最後に口付けを落とすように軽く吸い上げられる。サユキの唇が離れていくと、唾液が細く糸を引いた。
「一番美味しいと思ったのが、眼球なんだ。眼はね、表面を強膜が覆ってるんだけど……ほら、白目のことだよ。それがね、弾力があって、噛み切ると中からどろっとした硝子体が出てくるんだ。噛んでる内にほんのり血の味がしてくるし、何よりも食感がたまらない」
サユキのうっとりとした声が鼓膜を揺らす。ノゾミは唾液の膜が張った眼で彼の姿を捉えようとした。が、サユキはもうそこには居なくて。
僅かに首を動かしても血だらけのキオが横たわっているだけだった。
(キオ……ごめん、俺……お前を助けられそうにない)
もう反撃する体力も、痛みを堪える気力も失ってしまった。
自分はここで死ぬのだろうか。死ねないはずだけど、もしかしたら彼ならやってくれるかもしれないという期待がある。
(あぁ……死にたい……)
心の中でぼやいた時だ。近くで足音がした。
どうやらこの部屋と隣の部屋は中で繋がっていたらしく、そちらに行っていたサユキが戻って来たようだ。次は何が待ち受けているのだろうと頭の片隅で思っていると、サユキがノゾミの正面に陣取る。
「――!?」
次の瞬間、彼の手に握られているものに眼を疑った。
斧だ。鋭い刃を備えたずっしりとした斧が、サユキの手から延びている。
硝子体は『ガラスたい』とも『しょうしたい』とも言うのであえてルビは振りませんでした。
 




