表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/168

5-2-6

多分残酷描写あります。

多分というのは、自分の感覚の中ではグロの内に入らないからです。

「あの人を殺したは良いけど、(ボク)からしたら突然父親の死体が目の前に転がってる訳だから、子供だった(ボク)は混乱した。そこで思ったんだ。『喰べてしまえば証拠は(のこ)らないんじゃないのか』ってね」

 彼はどこか遠くの過去に想いを馳せるようにうっとりとする。その目の焦点が合っていなくて、彼の心はここに無いのだと知る。


「それでね、喰べてみたらもう美味しくて。太腿の筋肉とか肝臓とか。でも、その時一番美味しいと思ったのが――」

 そこでサユキは言葉を切って、ノゾミとの距離を詰めてきた。

 またどこかを喰べられる。遠のきそうになる意識の端で、漠然と彼ならそうすると思った。

「……ぁ、ぅあ……っ」


 額に手を置いて頭を床に押し付け、親指で右の上瞼(うわまぶた)を閉じないように押さえられる。抵抗する余裕もないノゾミの目に、サユキの顔が映った。

 まだノゾミの血が残る彼の口が、開かれる。

「……え?」


 彼が舌を伸ばした先はノゾミの眼球。見開かされた眼の表面だった。

(次は、眼か……?)

 目玉を(えぐ)り出されたらどんなに痛いことだろう。きっとまた、あられもない叫び声を上げて転げ回ることになる。

 痛いのは嫌いだ。だが、心が痛むより体が痛んだ方がマシだ。なるようになればいい。


「……ッ…、……」

 サユキは下瞼の縁にゆっくりと舌を這わせていく。粘膜を舐められる感覚に、ノゾミは全身を震わせた。

 最後に口付けを落とすように軽く吸い上げられる。サユキの唇が離れていくと、唾液が細く糸を引いた。


「一番美味しいと思ったのが、眼球なんだ。眼はね、表面を強膜が覆ってるんだけど……ほら、白目のことだよ。それがね、弾力があって、噛み切ると中からどろっとした硝子体が出てくるんだ。噛んでる内にほんのり血の味がしてくるし、何よりも食感がたまらない」

 サユキのうっとりとした声が鼓膜を揺らす。ノゾミは唾液の膜が張った眼で彼の姿を捉えようとした。が、サユキはもうそこには居なくて。


 僅かに首を動かしても血だらけのキオが横たわっているだけだった。

(キオ……ごめん、俺……お前を助けられそうにない)

 もう反撃する体力も、痛みを堪える気力も失ってしまった。

 自分はここで死ぬのだろうか。死ねないはずだけど、もしかしたら彼ならやってくれるかもしれないという期待がある。

(あぁ……死にたい……)


 心の中でぼやいた時だ。近くで足音がした。

 どうやらこの部屋と隣の部屋は中で繋がっていたらしく、そちらに行っていたサユキが戻って来たようだ。次は何が待ち受けているのだろうと頭の片隅で思っていると、サユキがノゾミの正面に陣取る。

「――!?」

 次の瞬間、彼の手に握られているものに眼を疑った。


 斧だ。鋭い刃を備えたずっしりとした斧が、サユキの手から延びている。

硝子体は『ガラスたい』とも『しょうしたい』とも言うのであえてルビは振りませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ