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5-2-5

残酷描写(?)あります。

「ぅぐ…あ、あが…、あ、あぁぁあぁあああ゛、ッ」

 サユキが離れていくと同時にノゾミは力なく倒れ込み、ようやく解放された唇からは痛哭(つうこく)が混じった唾液と血液を垂れ流す。

 彼はその口に残ったものを飲み込むと、おもむろに口を開いた。

「ノゾミ君、なかなか良い味してるね。やっぱり兄弟なだけあってキオ君と似た味だけど、君の方が甘くて美味しいよ」


「――――」

 なぜ。

 なぜ、そんなにっこりとしている。

 痛くて痛くてたまらないのに、なぜ、子犬を見つめるような視線を送ってくる。

 お前はなぜ、人を喰べる?


「あ、今もしかして、どうして(ボク)が人を喰べるのか気になったでしょ」

 ノゾミは頷かず、返事もせず、光を失いかけた眼でサユキを見つめ、だらしなく口を開けていた。

「五歳の時、初めて人を喰べたんだ。誰だと思う?」

 ノゾミは何も応えない。傷口が痛んで、それどころではないからだ。


「父親だよ。(ボク)の母親は(ボク)が生まれてすぐに亡くなったから、父親に育てられたんだ。でもあの人は(ボク)が嫌いだった。こんな見た目だからね」

 そんな言葉を聞いて、不覚にも自分と似ていると思ってしまった。彼もまた、父親から愛されていなかったのだ。


(ボク)が周りと違うことをあの人は嫌った。だからあの人は(ボク)を家の中に閉じ込めたんだ」

 サユキの青い瞳がノゾミを見下ろす。

「あの人は決まった職に就いていなくてね、日雇いの仕事で食いつないでたんだ。しかもあの人はむかつくとすぐ(ボク)に当たる。ノゾミ君は耐えられる? 寒い家の中に(かくま)われて、父親のサンドバッグとして生きる生活は」


「……」

 耐えられるかだって? ノゾミも父の暴力を何年も受け続け、(さげす)まれ、それでもここまで生きてきた。その為に世間では大切だと言われるものを手放した。余計な感情、生きる気力、期待がそうだ。

 だが彼とは一線を(かく)しているという自意識だけは欲しかった。


(ボク)はね、耐えられなかったよ。だから殺してもらったんだ、もう一人の(ボク)に」

 サユキの手が彼の胸を(おさ)える。

「コユキは(ボク)を助けてくれたんだ、あの人から」

 ーー殺すことが助けることなのか。

 そう言おうとしたノゾミの口からは呻き声しか出てこなかった。


「でもね、コユキったら急に()っちゃうんだよ。その頃の(ボク)たちは、片方が起きてる時、もう片方は寝ている状態でしか体を共有できなかったから」

 ということは、彼はもうサユキとコユキの人格を自由に交代できるということだ。

 今もコユキが彼の中で目覚めているのだと思うと、絶望に似た感覚に支配された。

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