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残酷描写あります。ご注意下さい。痛いのが苦手な方は要注意です。
「喰べるって……」
「ふふっ、ちょっと味見させてね」
「おい…、止め……」
サユキが口を開ける。舌を伸ばす。傷口に、触れる――。
「止めろ、キオを穢すなぁあァああ!」
傷口を舌で抉り、湧き出た血液を飲み下す。それを何度も繰り返すうちに唇を直接そこに当てて強く吸い始めた。
そんなものを見せられて、弟が喰われるのを見せられて、ノゾミの中で何かが爆発する。
「テメエ、キオから離れろ! そんなに喰いたいなら俺を喰えッ!!」
「――――へぇ」
顔を上げたサユキは口元に付いた血を手の甲で拭う。
「それほんと? 僕、本気にしちゃうよ」
その眼は据わっており、ノゾミの瞳を真っ直ぐに射貫いていた。背筋をぞわぞわとしたものが這い上がる。
身の危険を感じた時にはもう遅くて。
「僕が一番喰べたいのは君だからね。死なない身体なんて、どんな味がするか楽しみだよ」
気が付いたら、目の前にサユキが居た。
「じゃ、いただきます」
「……ん……」
何だ、何が起きている? 急に視界が暗くなって、唇に何かが触れた。柔らかくて温かい、何かが。
「ん、ぅ……んぐっ」
口の中に滑ったものが入ってきてようやく、状況が理解できた。
(嘘だろ……)
サユキがノゾミの口を、彼の唇で塞いでいた。
差し込まれた舌で口腔をかき回し、唾液を啜られる。しつこく舌を嬲ってくるあたり、本当に味をみているようだ。
(止めろ、気持ち悪い)
抵抗しようにも顎をしっかりと掴まれている上に、足を押さえつけられている。
このままではいけない。
「ん、ぅう……ん」
彼を追い払ってキオの元に行かなければ。そう思って軽く身を捩った時だ。
ノゾミの舌に、歯が立てられる。
(痛って……)
顔をしかめ嫌悪感を露わにするが、彼には届いていない。首を振ろうとすれば両手で頭を固定され、腹を蹴ろうとすれば足に乗り上げて体重をかけられる。
ノゾミの動きを完全を封じたサユキは、さらに歯を噛み締めた。
「ゔッ……ぐ…」
痛みに耐えきれず呻き声を漏らす。次第に口の中に、じわりと血の味が広がってきた。
血の気が下がり、額には冷や汗が浮かんでくる。
(こいつ、まさか)
「――――ッ!」
激痛が、音もなく訪れた。ノゾミの断末魔のような叫び声はサユキに呑み込まれていく。絶叫と一緒に、噴き出す鮮血も吸い取られた。
サユキは喰い千切った舌先を尚も舐る。その度にノゾミは声にならない悲鳴を上げ、悶え苦しんだ。焼けるような痛みに、気が遠くなっていく。




