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「――コ、コユキ……?」
「そ。お前が呆れるほど鈍いから、こっちから正体明かしてやったんだ。感謝しな」
(もう、何なんだよ。訳わかんねー……)
そこら中が痛んで、冷静に物事を考えられない。
ただ、自分を見下ろしているコユキの瞳が、サユキのものとは違って炎のように紅くて。それは燃えるような殺気を湛えていた。
「お前と初めて逢ったのは僕だ。その時、あのクソアマの気配がしたから出直したってのに、アイツ僕たちのこと覚えてねーんだもんな」
「アイツって、ミコトのことか?」
「他に誰がいるって言うんだ。お前らほんとに馬鹿なんじゃねェの」
コユキが何に対して怒っているのか分からないが、ミコトは彼のことは知らないと言っていた。ノゾミもそれを信じているから、彼に何を言われてもピンと来ない。
「あんた、何者なんだよ……」
「さぁね」
肩を竦めてノゾミの正面にしゃがんだコユキの眼は、既に碧く穏やかなものになっていた。
「僕が何者かなんて、今の君には『弟を殺した奴』で十分なんじゃないかな」
「テ、メエ……」
ぎりぎりと歯を食いしばり、今にも掴みかかりそうになるのを理性で抑えた。こんなに感情が昂ぶっているのに、無意識の内に自制が出来ているようだ。
だがそれも、あっけなく崩れ去る。
「それにしてもキオ君って美味しそうだよね。最初はノゾミ君に目を付けてたのに、兄弟揃ってこんなに良い素質を持ってるなんて」
「はあ?」
「あの日、図書館の前で逢えたのは本当にただの偶然。僕はその前からここに住んでたし、キオ君とも知り合いだった。……まあ、当然キオ君は僕の正体なんて知らないけどね」
「お前、キオまで巻き込んで俺たちをどうしたいんだ」
ノゾミが尋ねるとサユキは立ち上がり、今度はキオの上に覆い被さった。
そして、未だ血が溢れ出しているキオの首元の傷に口を近付ける。
「それはもちろん、喰べたいんだよ」




