表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/168

5-2-1 豹変

 



「――――ぅ……」

 体中が(だる)くて重い。重力が普段の何倍にもなってしまったかのようだ。覚醒しかけた意識を呼び起こし、やっとのことで目を開ける。

 自らの体の変化に気が付いたのは、その時だった。


「なんだ、これ……」

 腕が、全く動かない。

 後ろ手に縛られていて、藻掻(もが)けば藻掻くほど縄が皮膚に食い込んだ。

(嘘だろ……誰がこんな)


 いや、こんな事をやりそうなのは一人しかいない。

 あの雪のように白い青年。ノゾミが眠りに落ちる直前に(わら)っていた、あの妖しい青年。

(そうだ、キオは!?)

 頭をもたげて部屋を見回すが、ここには誰も居なかった。ノゾミはリビングの壁にもたれて座らされていて、ろくに身動きも取れない。


 ただ正面に見える二つの扉が、異様な程の存在感を放っていた。どちらかの部屋にキオは居る。そして同じ場所にサユキも居るのだろう。

「はぁー…、最悪……」

 サユキが何を考えているのかは分からないが、厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだ。早いところキオを見つけて帰らなければ。


(その前に、この縄を何とかしないとな)

 縄から腕を引き抜こうとしてみるが、力を()めると縄が擦れて痛い。近くに(はさみ)やカッターも見当たらないし、あったとしてもこの状態では使えない。

(助けを呼ぶか? でも助けって誰だ)

 大体、荷物はキオの部屋に置いてきたので、携帯電話も持ってない。


畜生(ちくしょう)、アイツが出てきたら問い詰めてやる)

 全く、サユキは一体何をしたいのやら。もしかしなくても、これは監禁だ。たとえ謝られたとしても、腹の虫が治まらない。

(あ、どっちかの部屋に居るなら、声出せば届くかも)


 たかが壁一枚しか隔てていないのだ。直接サユキと話すことにはなるが、彼を追求する何よりの手段だ。

「おい! サユキ…さん。居るんだ、でしょう。何がしたいんですか!」

 すると、案外すぐに答えは返ってくる。

「ノゾミ君? 起きたんだ。こっちに来てごらんよ、足は動くだろう」


 挑発されるように言われて、ノゾミの頭に血が上る。

 壁に体重をかけてやっとの思いで立ち上がると、サユキの声がした方の部屋へと歩き出した。

(キオ……今行くから)


 扉はドアノブのレバーを下ろして開けるタイプだった。手が使えないので、体を捻って肘でレバーを下げるとドアが内側に開く。その拍子にバランスを崩したノゾミは、前に倒れ込んでしまった。

 胸を床に打ったせいで一瞬呼吸が苦しくなったが、お陰で扉が開かれる。

「キオ……っ」


 顔を上げると、弟が仰向けで床に横たわっていた。

 それも、血溜まりの中で。


「な…、キオ……?」

「おはようノゾミ君。気分はどうかな」

 サユキは部屋の横にあるベッドに座って、二人を見下ろしている。が、ノゾミの視界には入っていなかった。


「キオ、おい起きろよ……キオッ!」

「あれ、僕の声聞こえてないかな?」

「キオ! 何してんだ、眼ェ開けろよ! キオ!!」

「ふぅん……」


 ふっと目を細めたサユキの顔から、笑顔が消えた。

 彼はベッドを離れてノゾミの元へ近づいてくる。本能的に身を固くしたが、髪の毛を鷲掴(わしづか)みにされて強制的に上半身を起こされた。


「ぅぐ……」

「僕はここだよ」

「お前…キオに何をした?」

「――――殺してもらったんだ」

「ッ!」


 ノゾミは、もはや相手が年上であることも忘れて叫んだ。

「ふ…ざけんな、テメエ! 俺の弟に勝手に手ぇだしてんじゃねえよ! (クソ)野郎がぁッ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ