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「じゃあお願いしてもいいかな? ね、ノゾ兄も良いよね」
サユキと一緒にいるのは気が進まなかったが、片付けが早く済むならそれに越したことはない。聞き分けのない子供ではないのだから、どちらを優先すべきか分かっている。
「サユキさんがそう言ってくれるなら……お願いします」
「もちろんだよ。僕こう見えて綺麗好きだから、任せて」
サユキは力こぶを作るような動作をするが、長袖のパーカーに隠れていて実際にできたかどうかは確かめようがない。そもそも、彼の華奢な体には似合わないポーズだ。
「そうと決まれば早く始めようか、キオ君」
「うん。ノゾ兄は洗い物をして、サユキさんは古新聞をまとめてもらっていいかな?」
「りょーかいっ。頑張ろうね、二人とも」
「っ……、はい」
部屋の中に上がってきたサユキが、ノゾミに向かって微笑みかける。だが彼が『二人』と言った時に、ノゾミしか見ていなかったのが気になった。
(まさかミコトが見えてる? ――って、そんな訳ないか)
いくら容姿に似ているところがあるからと言って、サユキとミコトを結びつけるのは難しい。彼がサトリでもレイでもない以上、ミコトが見えるはずは無いのだから。
(いや待てよ。あの殺人鬼なら……)
先日出くわした殺人鬼。彼はなぜかミコトが見えていた。それに、今思い返せば二人のゆったりとした喋り方には通ずるところがあった。
(なんて、考えすぎだよな)
サユキはキオと親交が深い。サユキを疑うということは、キオにも何かしらの疑いがかかる、または危険が迫っているということだ。だが弟に変わったところは見受けられない。
ここは自分に与えられた仕事に徹しようと、既に片付けを始めていた二人に続いてノゾミも作業を開始する。
キオは父の部屋へ行き、サユキもこちらに背を向けていたので、ミコトに洗い物を手伝ってもらうことにした。流れる水の音に紛れて、皿がぶつかる音が少し多いのは気にならないだろう。
そんな中、ノゾミが洗った皿を拭いていたミコトが、ふと口を開く。
「ノゾ君、あのサユキという方、気になりませんか?」
「そうか? ……考えすぎだろ」
それはミコトよりも、自分に言い聞かせるような言葉だった。




