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「じゃあ、遺品整理終わらせちゃいましょうか」
「うんっ」
「……ん」
母の一言で再び作業に戻る頃には、キオとの気まずさも姿を消していた。これが普通なのかもしれないが、家族と心置きなく過ごせるのが妙に嬉しくて、そわそする。
それぞれが持ち場に戻ってから、こっそりミコトに話しかけた。
「ごめんミコト、俺はもう平気だから」
「僕の方こそごめんなさい。急に大きな声を出して」
「いいんだ。ちょっと驚いたけど、その……悪い気は、しなかったし……」
「…………」
「ミコト?」
「――あ、はい。ごめんなさい、よく聞こえなかったのでもう一回言って下さい」
「えっ」
少し声が小さすぎるかとは思ったが、聞こえてすらいなかったようだ。
いや、言うのが照れ臭かったからそれでも良いのだが。素直に嬉しかった、と告げられないほど恥ずかしかったのに。いつになく気が緩んでいるみたいだ。卑屈な自分を否定されて喜ぶなんて、らしくない。
「いや、大したことじゃないから、気にしなくていい」
「そうですか……」
「ああ。ミコトはしばらく暇になるかもしれないから、部屋に戻ってたらどうだ」
「ではそうしますね。お先に失礼します」
「一時間位で片付くと思うから」
ミコトを見送ってから、ようやくほっと息をついた。心なしか頬が熱くて、動悸がするような。
(そうだ、慣れないこと言ったからだ。……馬鹿じゃねえの、俺)
喜怒哀楽はいらない。喜びすぎたり、楽しみすぎると後が辛い。何か悪いことが起これば、落差が大きい分負の感情も強くなる。
だから、こうして心を落ち着けて平生を保つのだ。
「よしっ、やるか」
これが終われば家に帰れる。大人だらけの息苦しい空間から解放される。そのことだけをやり甲斐にして、ノゾミは作業に没頭した。




