表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/168

4-11-6

「じゃあ、遺品整理終わらせちゃいましょうか」

「うんっ」

「……ん」

 母の一言で再び作業に戻る頃には、キオとの気まずさも姿を消していた。これが普通なのかもしれないが、家族と心置きなく過ごせるのが妙に嬉しくて、そわそする。


 それぞれが持ち場に戻ってから、こっそりミコトに話しかけた。

「ごめんミコト、俺はもう平気だから」

「僕の方こそごめんなさい。急に大きな声を出して」

「いいんだ。ちょっと驚いたけど、その……悪い気は、しなかったし……」


「…………」

「ミコト?」

「――あ、はい。ごめんなさい、よく聞こえなかったのでもう一回言って下さい」

「えっ」


 少し声が小さすぎるかとは思ったが、聞こえてすらいなかったようだ。

 いや、言うのが照れ臭かったからそれでも良いのだが。素直に嬉しかった、と告げられないほど恥ずかしかったのに。いつになく気が緩んでいるみたいだ。卑屈な自分を否定されて喜ぶなんて、らしく(・・・)ない。


「いや、大したことじゃないから、気にしなくていい」

「そうですか……」

「ああ。ミコトはしばらく暇になるかもしれないから、部屋に戻ってたらどうだ」

「ではそうしますね。お先に失礼します」

「一時間位で片付くと思うから」


 ミコトを見送ってから、ようやくほっと息をついた。心なしか頬が熱くて、動悸(どうき)がするような。

(そうだ、慣れないこと言ったからだ。……馬鹿じゃねえの、俺)

 喜怒哀楽はいらない。喜びすぎたり、楽しみすぎると後が辛い。何か悪いことが起これば、落差が大きい分負の感情も強くなる。


 だから、こうして心を落ち着けて平生(へいぜい)を保つのだ。

「よしっ、やるか」

 これが終われば家に帰れる。大人だらけの息苦しい空間から解放される。そのことだけをやり甲斐にして、ノゾミは作業に没頭した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ