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知りたい。
あの人と自分に何があったのか。自分が、何者なのか。
「早く、教えてよ……」
そう言っている間にも涙は止まらず、次々と畳を濡らしていった。ノゾミは瞬きをするのも忘れ、落ちていく雫をただ見つめるだけで。声も上げず、静かに、泣いていた。
「ノゾ君……」
不意に耳元から、聞き慣れた鈴のような声が響いて、そちらに顔を向ける。
(誰かに泣き顔見せるのなんて、ガキの頃以来だな)
今までは、どんなに辛くても人前で涙を見せないように気張ってきたのに。ノゾミの中の何かが、音を立てて崩壊していく。ミコトの前で、家族の前で、こんなにも情けないところを晒している。
それでも、ミコトに恥ずかしい姿を見せてしまったというよりも、彼女が居てくれて良かったと思ってしまうのだ。
ノゾミは隣にいるミコトの手を取ると、そのままぎゅっと握りしめる。そして『そばにいて』と口の動きだけで伝えると、ミコトは寄り添ってその場に腰を下ろしてくれた。
お陰で心が落ち着いてきて、涙の勢いも弱まってくる。
「母さん、キオ。話してよ――父さんのこと」
すると二人は、目線だけで会話をするように顔を見合わせた。
やがて数秒の間を空けて、母の方が切り出す。
「…………分かったわ。もう、その紙を見られちゃったら話さない方が酷かもしれないしね」
母は畳の上に遺伝子研究部門からの封筒とその中身を置くと、姿勢を整えてノゾミと向き合った。キオは母の斜め後ろに正座している。
「実はね……母さんは、父さんと付き合う直前まで別の人とお付き合いしてたの」
「……うん」
「でもね、その人はちょっと束縛が激しい人で……父さんは、母さんを庇って『新しく恋を始めよう』って言ってくれた」
あの人も初めは優しかったんだなぁ、なんてことを自らの過去と重ねて考えた。二人の間に愛があったのなら、やはり父のノゾミに対する態度はこちら側に原因があるのだろうか。
「それから前の人と別れてすぐに父さんと付き合って、五ヶ月くらいかな。母さんはお腹に赤ちゃんができたの」
「そ、それって……」
「ええ、ノゾミよ。あなたの命を授かって、母さんたちは結婚することにしたわ」
どこかに思いを馳せるように遠くを眺めていた母は例の文書を手に取ると、俯き気味になる。
「それからノゾミが生まれてキオも生まれて。私たちはしばらく、平穏な、幸せな家族だった」




