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「そう…ですか……」
サユキの屈託の無い笑顔は、自身の容姿のことなど本当に気にしていない、といった体だった。
「あの、サユキさんはいつからキオ達と?」
「二年前、かな。僕が大学に上がってひとり暮らしを始めたから、その時から」
たった二年か、と思うと同時に、その短い間で父やキオと良好な関係を築けていることに驚いた。ノゾミの方がずっと長く彼らと居たのに、サユキには敵わなかったということなのだろうか。
そんなノゾミの胸の内など知るよしも無く、サユキはそのゆったりとした口調で言う。
「キオ君とノゾミ君は、まだここに居て良いの?」
「ううん、今戻ろうとしてたところ」
「じゃあ一緒に行こうか。良いよね、ノゾミ君?」
「あ、はい……」
急に話を振られて、狼狽えながらも返事をする。どうやらサユキは、初対面の人とも難なく喋れるタイプのようだ。ノゾミとて人見知りではないけれど、彼には妙な違和感を感じているせいで、どうにも言葉がつっかえてしまう。
違和感というよりは、既視感と言ったほうが近いかも知れない。最近、ムクロを除いて彼のような温厚な人間に出逢った覚えはないから、ただの思い過ごしだということは明らかなのだが。
(なんで、こんなに気になるんだろ……)
ミコトに似ているせいだろうか。あんなに特徴的な見た目の人物が二人もいたら、気になって当然なのかもしれない。
「ノゾ兄ー、行かないの?」
「今行くってば」
ノゾミが考え込んでいるうちに二人は先に行ってしまっていた。
見る限り二人は気が置けない、といった様子で話し込んでいる。それも、本当の兄弟のように。キオと最後にあんな風に話したのはいつだっただろうか。
ノゾミはすっかり置いて行かれてしまい、キオの小さな背中と、サユキの華奢な背中を追いかけた。サユキの方は、黒いスーツに白い髪のコントラストが妙に目立つ。
(あの人は、俺の知らないキオと話してるんだ……)




