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「サユキさーん!」
キオは彼に駆け寄ると、仲良さげに話し始めた。
「もしかして歩いてきたの?」
「まさか、すぐそこまでタクシーで来たんだよ」
「遠いのに、わざわざありがとう」
「ヒカルさんにはお世話になったからね。もちろん、キオ君にも」
ヒカル、とは父の名だ。“かがやく”と書いて“輝”。
因みにキオの名は父から貰って、“輝いて生きる”の意で“輝生”と書く。昔から友達が多くて明るい性格だったから、ぴったりの名前だ。ノゾミとは大違い。
(父さんも、仲良い人とか居たんだな……)
彼らがどこまで深く関わっているのかは知らないが、自分にあんなに冷たく当たっていた父親が、家族でもない人間と親しくしているのが、何となく信じられなかった。
(でも、あの人だって大人だし。俺のこと嫌ってただけで、他の人はそうでもなかったんだろうな)
自分だけが不当な扱いを受けていたからといって、今更落ち込むことはない。そんな感情は、不要なものだ。
「――、ミくん…ノゾミくん……ノゾミ君?」
「え? あ、はいっ」
上の空だった意識を引っ張り戻されて、ノゾミは顔を上げる。すると目の前には、白髪の青年の気遣わしげな表情があった。
「どうかしたの?」
「な、何でもないです……済みません」
「謝ることはないよ。僕はサユキ。キオ君とヒカルさんの隣に住んでて、仲良くさせてもらってたんだ。よろしくね」
おっとりとした喋り方が特徴的な青年は、握手を求めて手を伸ばしてくる。
「……よろしく、お願いします」
ノゾミはそれを躊躇いがちに受け入れた。
近くで見ると、白いのは髪だけではなく、肌も同様だった。その名の通り雪のような姿に、思わず見入ってしまう。
「僕のこと、気になる?」
「そっ、そんなことないです! ほんとに、全然」
「あはは、遠慮しなくていいよ。慣れてるから」
不自然なまでに否定してしまったので、逆に肯定と取られても仕方なかっただろう。いや、気にしていなくは無かったが、もっと上手く誤魔化したかった。
彼は握手を解くと、自らの髪の毛を指先で弄り始めた。
「昔はコンプレックスだったんだけどねぇ、今はもう気にならなくなっちゃった」




