4-10-1 夏の雪
次の日、ノゾミは喪服代わりに制服を身に纏い、葬儀場の周辺を彷徨いていた。
葬儀まではまだ時間があるし、控え室に居ても落ち着かないので、独りでふらふらとそこを抜け出してしまったのだ。ミコトはというと、初めての場所をいろいろ見て回りたいと言って、ムクロの傍についている。
外に出ても流石は田舎、と思わせる景色ばかりが目に付いた。都会より何倍も広くて澄んだ空と、その下に連なる山々。たまに肌を撫でる涼しい風が、自分の居場所を教えてくれるようで。
午前中の爽やかな空気を吸い込もうとしたら、後ろから呼びかけられた。
「ノゾ兄、そろそろ戻ってきてって、母さんが」
「ああ、今行く」
葬儀場の裏手に居たノゾミは、弟の後を追って入り口まで戻って来た。
すると今度は、驚いたようなキオの声が聞こえてくる。
「あれ、サユキさん……?」
キオの視線の先を辿ると、こちらに向かってくる青年の姿が見えた。
「知り合いか?」
「うん。俺たちが住んでるマンションのお隣さんで、俺も父さんも仲良くしてもらってたんだ」
サユキ、と呼ばれた青年は黒いスーツをぴっちりと着込んでいた。まだ遠くにいて、顔の輪郭までは見えないが、よくこんなに離れた所から人物を特定できるな、と感心させられる。
だがなぜキオが彼を簡単に判別できたのかは、すぐに分かった。
(あの人……髪が真っ白だ)
それだけではない。だんだん彼が近づくにつれて、その容姿が明らかになる。
雪のように輝く白髪と、空よりも深い青色をした瞳。その姿はどことなくミコトを彷彿とさせて、ノゾミを驚嘆の中に陥れた。




