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「負の感情が抑えられなくなって発散した先が自傷なのです。辛くて辛くて仕方ないのに、自分を傷つけることしか出来ない。にも関わらず何も解決しないのですから、虚しくて悲しくて、後悔してしまうのも道理で御座います」
「……そういうものなのか」
「寧ろ、ノゾミ様のように本当に死にたくて、それを実行に移す方のほうが少ないですよ。昨日貴方をお見かけしてすぐに、他の方とは違うものを感じました。それは、“死”への渇望、とでも言いましょうか……」
「悪かったな、死にたがりで」
棘のある言い方が、それでもノゾミらしいと言ってムクロは笑う。この寛大さや包容力が、彼の長い人生と経験を物語っている気がした。
「貴方も分かっているはずです。自分の体に刃を向けても何も変わらないと。ですから、もうこの様なことはお止め下さい。ミコト様の為にも」
その優しい物言いに、ノゾミが視線を少し下に下げると、ミコトと目が合った。
大きな青い瞳が、揺れている。
(そっか……もう俺一人の問題じゃないんだよな)
実は自分で思っている以上にミコトに迷惑をかけているのかもしれないと、ようやく自覚した。
「分かった……悪かったな、心配かけて」
「その台詞、今日で最後にして下さい」
ミコトは拗ねたように言ってみせてから、また普段通りの笑顔に戻る。
「ノゾ君のことを想ってる人が、近くにちゃんと居るんですからね」
ノゾミが口元を緩ませたのもつかの間。それはすぐに真剣な面持ちになって。
「ですが、それとこれとは話が別です。ムクロ、ノゾ君の感覚を貰うという話、考え直してくれませんか?」




