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ミコトがノゾミの命を助けたこと。ショウと出逢ったこと。殺人鬼に目を付けられてしまったこと。
これまでのことが簡潔に述べられていくが、さすがにムクロを犯人だと疑っていたことまでは話されなかった。
「成る程、お二人の事情は把握しました。ですが、ノゾミ様のお父様のご葬儀に私が携われるとは……運命というのは、不思議なもので御座いますね」
「……そうだな」
これが運命だとしたら、一体いつから始まっていたのだろう。
もしミコトに助けられていなければ、ムクロとは遺族と納棺師という関係以上にはなっていないはずだ。いやそれ以前に、ムクロには、もしかすればショウにも出逢っていなかったかもしれない。
「それで、ノゾミ様はご自身の命を絶つために、私に体を殺してほしい――ということでよろしいのですか?」
「ああ、そうだ」
ノゾミがきっぱりと告げると、ムクロは何かを考え込むように遠くを見つめ、顎に指を添えた。
その時ノゾミの頭をよぎったのは、断られるかもしれない、という不安。以前、ショウに死にたい理由を問われた時のことが思い出される。
しばらくの沈黙の後、ムクロが徐に口を開く。
「……それでは、交換条件というのは如何でしょう?」
「交換条件?」
「はい。ノゾミ様が死にたいと仰るのなら、私がお力添え致します。ですが、私にも少々込み入った事情がありまして……」
気まずそうに微笑むムクロの内面が窺えなくて、ノゾミは首を傾げた。
ノゾミの体を殺すのに相当する条件とは、どんなものなのだろうか。
「私が人々の体を体現した存在だというのは、ご存じですよね」
「知ってるけど、いまいちピンとこないというか……」
"体"というのは、他の三つ――精神、感覚、魂と明らかに違う点がある。それは、目に見え、触れられるということだ。
体以外のものはそれがどんな形状をしているか、どこにあるのかが定かではない。だから、それを体現した人が居るという話にも納得できた。
だが体は形もはっきりしているし、触ることもできる。それを体現する、というのが上手く理解できないのだ。
そのことを伝えると、ムクロは小さく息を漏らして目を細める。呆れているのではなくて、子供を宥めるような表情で。
「簡単な話で御座います――私の体は、この世界の人々と繋がっているのです」




