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4-8-1 代償

 

         ***


「……」

「……」


(ど、どうしよう……何て話せば良いんだ……)

 ノゾミは今、ムクロを正面にして、蛇に睨まれた(かえる)のように動けなくなっていた。

 ミコトの仲間なのだからこんなに身構える必要は無いと分かっているのだが、年上(に見える)ということもあり、出所(でどころ)不明の緊張に全身を支配されてしまう。ミコトはというと、まるで二人の仲介役のようにその様子を見守っていた。


「申し訳ありません。こちらからお誘いしたのに、あまり時間が取れなくて」

 ここは通夜式場の一角。納棺をつつがなく終えた一同は、場所を移動して通夜に参列している。

 ムクロは忙しい仕事の合間を縫って、わざわざ話をしに来てくれた。終わったらすぐに会社に戻らなくてはならないそうだ。


「い、いやそんなっ……ムクロ…さんだってお仕事中なんですから。仕方ないですよ」

 咄嗟に口を突いて出たのは、彼に合わせた敬語で。

「そんなに固くならないで下さい。ミコト様と同じように話していただいて構いませんよ」

「はい……わ、分かった」


 覚束(おぼつか)ない返事に、ムクロは小さく微笑んだ。

 ミコトもショウも、ノゾミより(はる)かに長い時間を生きている。それでも見た目が自分と同じか少し若いくらいだったから普通に話せたのだ。だがミコトと同じようにして構わない、と言うのならそうするべきだろう。


「それでは、まず私の方から自己紹介をさせて下さい」

「ああ、頼む」

 するとムクロは一歩下がり、(うやうや)しくお辞儀をした。

「改めまして、私はムクロと申します。この葬儀社で納棺師をしております。以後、お見知りおきを」


 その丁寧な所作に、ノゾミも慌てて頭を下げる。

「お、俺はノゾミっていいます! ……こちらこそ宜しく」

(何だろう……この人が相手だとペースが乱れる)

 普段こういったタイプの人物と逢わないので、喋り方がしどろもどろになってしまう。慣れるまでは時間がかかりそうだ。


「あの、納棺師って言ってたけど、こういう仕事もするのか?」

 彼らはさっきまで通夜式場の設営や受付をしていた。その方面の知識が全く無いので、少し疑問に思ったのだ。

「ええ。納棺業務のみを行う業者もありますが、弊社では葬儀全般を執り行っているので、私の仕事も納棺だけではないのです」

「へぇ……」


 この体になってから出逢ってきた者たちとは違う、大人の振る舞いに思わず(ほう)けた声を出してしまった。恐らく彼に限らずミコトもショウも、それぞれの長い人生が、彼らが持つ独特の雰囲気を助長しているのだろう。

「それでは、早速本題に入りたいのですが……」

 そう言ってムクロはミコトの方に視線を送る。


「ミコト様がお見えになるということは、ノゾミ様は命を助けられたのですね?」

「そのことについては、僕が説明します」

 ノゾミの代わりに答えたのはミコトだった。

 そして、ここまでの経緯を()い摘まんで()いていく。ノゾミが話そうとしていたよりも、ずっと分かりやすい説明だった。

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