1-3-1 死ぬために
「しっかりしたお母様ですね」
少女がひょっこりと顔を出す。
「やかましいだけだ」
「物は言いよう、ですね」
彼女はにっこりと笑って、姿勢を整えた。
「それで、何か言いかけてませんでしたか?」
「ああ、お前のワンピース、最初は白かったよな。それからお前のこと『普通は人に見えない』って、『普通の人に見えない』の間違いじゃないのか?」
「そのこと、ですか」
少女は何故か、少ししょんぼりしたように見えた。眉尻が下がり、うつむき気味になる。
そして口を小さく開けて、それを告げた。
「僕は、この命と引き換えに三回だけ、誰かの命を救うことが出来ます。」
思考回路が、一瞬止まる。
「――え、今なんて……だって、お前不死身なんだろ。それなのに命と引き換えって……」
いや、三回という制限があるあたり三回は死ねるという事だろうか。それも不完全な不死身という事なのか。
「僕はノゾ君を助けてしまった。でも、ノゾ君は生きていたくなかったんですよね」
「そう、だけど。じゃあ、お前が助けてなかったら、俺は死んでたのか?」
少女はゆっくりと頷いた。
「服が赤くなったのは、ノゾ君が僕を殺した証拠です。分かりますか?」
「血の色ってことか」
「はい」
「でもお前、夢の中で死にたいって、死ななくてはならないって、言ってたじゃないか」
「それは、ノゾ君を助けたかったから……! 助かるには僕を殺すことが条件なんです」
「そうか……」
不本意とはいえ、命を助けてもらった身だ。ここは素直に礼を言うべきなのだが、ノゾミにはそれがどうしても出来なかった。
「それで、お前は三回だけ誰かの命を救えるって言ってたよな」
「あ、はい。それにもちゃんと理由があります」
少女はノゾミの眼をしっかりと見つめて話し出す。その大きな瞳で見られると、こちらも眼が離せなくなってしまう。
「僕が人を救うたびに、僕の力がより多く助けた人に流れ込んでしまうんです」




