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「……なぁミコト、何でムクロがここに居るんだ?」
二人だけになった玄関の静かな空間に、ノゾミの声が吸収される。
「それは僕の方が聞きたいくらいです。まさか、葬儀社で働いていたなんて……」
ミコトの声は、ノゾミ以外の誰にも届かない。
「あの殺人鬼とは似ても似つかないというか、すごい優しそうな人だったぞ」
それはもう、疑っていたのが申し訳なくなる程に。物腰柔らかで紳士的だが怒るとかなり怖い、という話だったが、ミコトもショウも見た目だけならノゾミとあまり年が離れていないので、他の三人もそうなのだと思っていた。
それが、あんなに大人びた青年だったとは、何だか肩透かしを食らった気分だ。
「でも怒ると本当に怖いんですよ! 前にサトリが……って、こんな話をしている場合じゃないです。早く中に入りましょう」
そう言ってミコトが手近なところにある襖を開けようとしたので、慌ててそれを制止した。
「おい待てっ、勝手に襖が開いたら変だろ。それに、ムクロだって仕事中は俺たちに構えないはずだ」
彼がここに来たのはあくまでも仕事のためだ。それに、後で三人で話ができないかを尋ねてきた。彼がこの状況を放っておかないのは確かだ。
そのことを伝えると、ミコトは大人しく引き下がる。
「分かりました。焦るのは後にとっておきます」
「そうしてくれるとありがたい」
そしてミコトの代わりに襖を開ける。
部屋では葬儀社の者たちと親族達とが会話を交わしていて、どこにもノゾミの居場所が無いように思われた。
仕方なく縁側へと向かい、未だにうずくまっている弟の後ろに立つ。
その気配に気が付いたのか、キオが顔を上げた。
「ねぇ、ノゾ兄……。父さん、もうすぐいなくなっちゃうね」
「……」
"いなくなる"という言葉が心に引っ掛かった。
ノゾミからしたら、死んだ時点で"いなくなった"としても良いと思うのだが、キオはその人が棺桶に入ったところを"いなくなった"とするのか、はたまた火葬されて骨だけになったところで"いなくなった"と見なすのか。
ただ、『もうすぐ』と言っていたので、少なくともノゾミと同じ考えではないだろう。
だから、キオの言葉には否定も肯定もせず黙っていた。




