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4-7-3

 彼は丁寧な口調と落ち着いた声で言った。それはノゾミの後ろに立つ人物に向けられている。

(ミコトが見えてる……? ってことは――)

 ショウを除いた三人の内の誰か。

 だがレイは女の子で、サトリは背が低いとの話だ。そうとなれば、当てはまるのはただ一人。

「――この人が、ムクロ……」


 第一印象は物柔らかでおっとりした感じ、といったところだろうか。確かに体格は似ているが、つい先日まで殺人鬼だと疑っていたのが恥ずかしくなるような好青年だ。

 目が点になっているノゾミに、叔母が(いぶか)しげな声をかける。


「ノゾミ君、この方と知り合いだったの?」

「あの、知り合いって訳じゃなくて……」

 何と言って誤魔化せば良いものか。思い悩んでいると、彼がフォローを入れてくれた。

「昨日、こちらで納棺と葬儀のご相談をさせていただいた際にお見かけしました次第です」

(なんだ、昨日は仕事で来てたのか)


 図らずも彼と二日連続で逢うことになった理由は明らかになったが、問題はまだ残っている。

(あとはこの人が昨日のことについて喋らなければいいんだけど……)

 ノゾミは彼をじっと見つめた。いや、その目つきは睨む、と言った方が正しかっただろう。三人が次々に家の中へと上がっていく様子を、眉間にしわを寄せて眺めていた。


 青年が前の二人に続いて部屋へ入っていく――と思ったのだが、その直前でくるりと方向転換して、ノゾミの目の前にやって来た。

 そして少し腰を(かが)めてノゾミと同じ目線になり、耳元に囁く。

「ご心配には及びません。私は貴方(あなた)様を困らせるようなことは致しませんよ」

「!」


 一瞬、心が読み取られてしまったのかと思った。

 あまりに的確にノゾミの懸念を払拭されて、つい尋ねてしまう。

「あの、あなたは一体」

 何者なのか。そう言おうとしたのだが、彼の視線がそれを許してはくれなかった。

 まるで子猫を見守るような優しいその目に強制力は無いはずなのに、(あらが)えない。


「後でお話出来ませんか? ――三人(・・)で」

 そんな言葉を耳の奥に残していき、ノゾミの返事を聞かないうちに部屋の中に入ってしまった。恐らく、ノゾミが絶対に断らないと思っていたのだろう。

 確かに断るつもりなど無かったのだが、ここまでくると不気味にさえ思えてしまう。まだ、こちらの事情は何も話していないのだから。


 彼の後ろ姿が、黒い壁に見えた。


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