表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/168

4-7-1 葬儀社の青年

 

 ***


「ノゾミー? 早く来なさい。もうすぐ始まるわよ」

「んー、分かった」

 客間の向こうから聞こえる母の声に、ノゾミはやる気のなさそうな返事を返した。

 これから始まるのは他でもない、父の納棺だ。

 初めて立ち会う儀式に緊張しているのか、鼓動が速まった気がする。


「あの、僕はここで待っていた方が良いですよね」

「あ、いや……近くに、居てくれないか……?」

 父の親族ばかりの空間に独りで居るのが、心許ないから。

 そこまで言わなくてもミコトは分かってくれたようで、小さく頷いてからノゾミの横に並んだ。

「……行くぞ」

 そう短く告げて、客間の戸を開ける。


 廊下を抜けて広い居間に出ると、そこには何人もの大人達がいて。ノゾミは怯んだように(ふすま)の後ろに立って様子を伺うことにしたが、中には親戚かどうかも分からない初対面の人もいる。

 そこに足を踏み入れるのが何となく憚られて、客間へと引き返そうとするが、誰かに腕を掴まれてしまった。

 振り向いて自分の腕を見下ろすと、そこには白くて小さい手が。

「ミコト……」


「ノゾ君、僕がそばに居ますから、大丈夫です。お父様の納棺なのですから、ここに居た方が良いと思いますよ」

「……そうだな」

 居間に向き直ると、ミコトの手はノゾミのそれをぎゅっと握り締める。ミコトの手の温かさを感じることで、少し落ち着くことができた。

 そして今度こそ大人達の空間へと入っていく。


(あいつは……キオは、どうしてんだろ)

 親戚達への挨拶を避けようとして、この場に居るはずの弟の姿を探した。

 居間をぐるりと見渡しても見つけられなかったが、縁側まで出ると彼はすぐそこに居た。こちらに背を向けて、足を抱えて座り込んでいる。

 さすがにこんな時まで笑顔でいられるような者は誰もいない。敢えてキオには話しかけずに戻ろうとしたら、家の外の方から車の音が聞こえてきた。


 縁側から外を見ると、黒い車が車庫に入っていく様子がうかがえた。きっと葬儀社のものだ。

 いよいよ始まるのか、とノゾミの体に力が入る。

 車から黒いスーツを着た人が、三人降りてくる。

 ――そこで、ノゾミは自分の目を疑った。


(嘘だろ……なんで、あの人が……!)

 車から降りた内の一人に見覚えがあったからだ。それも、昨日見たばかりの人。

 漆黒のスーツを纏った、常磐色の髪を後頭部で結わえている青年。ノゾミが父の守り刀を手にしていたところを見ていた、正にその人。

 額に、冷や汗が流れた。

 昨日のことについて何か言われるのだろうか。いやその前に、なぜ昨日彼がこの家にいたのか。どうして今自分の目の前にいるのだ。


 新たな疑問が生まれては消えて、ノゾミはもはや混乱することしか出来なかった。

 すると、不意に青年がこちらを振り向く。

 視線がかち合い、ノゾミは顔をこわばらせた。だがそんなノゾミとは対照に、彼はふっと口元を緩める。

 そして他の二人と一緒に、玄関の方へと向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ