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「帰ろう、ノゾ兄」
「……ああ」
自分は兄であっても、弟のことは何でも分かる訳では無い。それでも、弟は何かに苦しんでいることは分かった。今にも泣き出してしまいそうな微笑の裏には、辛い、という感情が見え隠れしれいる。
そんなものを見せられても尚弟を問い詰められるほど、ノゾミも図太くない。
結局その後は互いに何も話そうとはせず、二人と一匹は短い散歩の時間を終えたのだった。
「ただいま、ミコト」
「お帰りなさい、ノゾ君」
客間に戻るやいなや、ミコトが勢い良く飛び出してくる。ノゾミは彼女を部屋に押し込むようにしてから、やっと一息ついた。
「どうでした? 弟さんから何か聞けましたか」
「いや……むしろ、知らない方が良いっていわれた」
「それは、どういう……?」
「どうもこうもない。キオが俺に言おうとしないんだ。きっと俺に気を遣ってるか、相当言いにくいことがあるんだろ」
いや、言いにくいことがあるから気を遣っている、と言った方が正しいかもしれない。とにかく、何の情報も得られなかったというのが結果だ。
それを伝えると、ミコトはしょんぼりしたように俯いた。
「そうでしたか。でも明日もありますし、ノゾ君なら大丈夫ですよ」
何が大丈夫なんだ、と言いかけた口を再び閉じた。
これはミコトなりの励ましなのだろう。今日が駄目でも明日があるから、その日になればまた新しい手がかりが見つかるはず、という。
「さっきは追い出すような真似をしてごめんなさい。お父様のこともありますけど、弟さんとも早く仲直りしてもらいたかったんです」
「謝ることはない。お前が背中を押してくれなかったら俺はいつまで経っても父さんのことを聞けないだろうし」
確かにここを出るときのミコトはいつになく強引だったが、その意図は分かっていたので別に怒る気は無かった。
だが、一つ訂正しなければならないことが。
「あと、俺は別にキオと仲直りしたいんじゃなくて……」
特に喧嘩をしていたという訳ではない。成長するごとに二人の性格に大きな差が生まれてしまっただけで、要は反りが合わなくなったのだ。




