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1-2-6

 だんだんこの少女が何者なのか見えてたが、まだ疑問は尽きない。

「あと、そのワンピースだけど――」

「ノゾミー? 着替え持ってきたわよ」

「!?」

 ノゾミの話を遮って、母がノックもせずに部屋に入ってきてしまった。見ず知らずの少女がここにいては不審がるに違いない。

「おい、どっかに隠れろ」

 ノゾミは彼女を自分の影に隠し、声を潜めて告げた。

「大丈夫です。僕のことは、普通は人に見えませんから――あっ」

「は? それってどういう……」

「ノゾミ? 何一人で喋ってるの。それに変な格好しちゃって」

 少女は何やら気になる一言を残して黙ってしまった。しかも語尾に、しまった、とでも言いたげな呟きを残して。

 だが取り敢えず彼女が言ったことを信じて、傾けていた体を元に戻す。


「はい、これ明日と明後日の着替え。明日は母さん来れないけど、大丈夫よね」

「うん……」

 どうやら本当に母には見えていないようだ。それでも内心ハラハラしていて、隣に座っている少女が気になってしまう。

「まったく、ノゾミの部屋は本当に何もないんだから。最初に入った時はびっくりしたわよ」

(また始まった……)

 この一週間、いつも同じ小言を言われている。いい加減聞き飽きてしまった。

「冷蔵庫は飲み物しか入ってないし、戸棚はカップ麺ばっかり。ちゃんとした食事が摂れる分、入院して良かったんじゃない?」

「はいはい」

 これも毎回言われる事だ。お陰で、退院したら毎日母にメールで近況報告することが義務付けられてしまった。


「それから、はいこれ」

「何?」

「夏休みの宿題よ。どうせ暇してるんでしょうから、あと一週間やっておけばいいじゃない。利き手は怪我してないんだしね」

 ノゾミは辟易(へきえき)の溜息をつくのをぐっと堪えた。

 実は事故に遭った日は夏休み初日だったのだ。

 周りは授業を休むことがなくて良かったね、などと言うが、ノゾミからしたら元から休みの日ではなく、学校がある日に休みたかった。

 学校に行くのも嫌だったから。


「それじゃ、今日は忙しいからもう行くわね」

「ん……」

  まるで嵐のように、いきなり来てあっという間に帰ってしまった。

 母がいなくなった病室には静けさが訪れ、ベッドテーブルにはプリントや問題集がひっそりと積まれていた。


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