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残酷とまではいきませんが、際どい描写があります。
「何だよ、あいつ……」
弟との接し方など、とうに忘れていた。こんな時、どう取り繕っていたのか思い出せない。
幼い頃はもっと仲が良かったはずなのに、一体いつから変わってしまったのだろう。
父に向き直ってみても、答えは分からない。
「俺、これからどうなるんだろ……ちゃんと死ねるのかな」
青白い顔をした父は、瞼を固く閉ざしたままだ。
なぜだか哀愁は湧いてこない。
もっと哀しむべきなのだろうか。だが〝哀しむ〟というのは強制されてすることではない。
(ま、赤の他人だし)
ノゾミはそう自分に言い聞かせることで、この残酷な感情を誤魔化そうとした。
目の前の屍をじっと見つめていると、〝生〟と〝死〟の境目が曖昧になってくる。ここに居る自分は死んだように生きているのに、横になっている父はまるで眠っているかのように死んでいるのだから。
(――これなら、もしかして……)
そんなノゾミの眼に、偶然にも父の胸の上にある守り刀が飛び込んできた。
それを手に取り、鞘を抜いて鋭敏な刃を左の手首に宛てがってみる。
「これなら、逝ける……?」
父が死んだところで、解放されたという気は全くしない。むしろ、〝死〟への興味がより一層増してしまった。
死なない体を持て余すのにも、いずれ飽きてしまうだろう。だったら、ほんの僅かでもいい。それを終わらせる感覚を味あわせてもらえないだろうか。
「――ッ」
ノゾミは思い切って肌に宛てた守り刀を滑らせた。
その瞬間感じたのは、恐怖や自責の念ではなく。
溜まっていた苦痛が鮮血と共に流れ出ていくような爽快感と、初めての刺激に陶酔しきっていく快感。
きっと今の自分は、恍惚とした表情を浮かべているだろう。
ノゾミが正気に返ったのは、滲み出てきた紅血が肘の先まで滴ってきた時だ。
「ぅわ、これどうしよ」
そこで周囲に拭うものが無いことに気が付いたノゾミは、服や畳を汚せば怪しまれると思い、咄嗟に自らの口をそこに寄せた。
「…ん……」
(血って、もっと鉄臭いと思ってたけど)
――意外と、いける。
紅い筋を舌で辿ると、届かないところは指で拭い、それすらも舐め取った。
だが初めの内こそ次々に湧いてきた血も、徐々に勢いを弱めていく。
「あれ……?」
傷はそれほど浅くないはずだ。もっと出血量が多いかと思っていたのに、既に傷口からの溢血は止まっていた。
(死なない、体質……)
ノゾミは唾を飲み込んだ。
もう一度、今度はさらに深く、手首を傷付けたらどうなるのだろう。
あの快感がまた味わえるなら。どうせ死なないのなら。
「少しだけ、だから」
誰かに言い訳をするように呟き、再び守り刀を手首に押し宛てた。
肌が切れる。そう感じる直前、ノゾミを穏やかな突風が襲った。
「っ!」
今まで気付かなかったが、窓が開いていたようだ。山から下りてくる風がノゾミの横を駆け抜ける。




