表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/168

4-3-3

「はぁ、はぁっ……つ、着いた……」

 父の実家に到着する頃には、ノゾミの息はすっかり上がっていた。

「ノゾ君、大丈夫ですか」

「まぁ、何とか」

 家の前に長い上り坂があるのをすっかり忘れていて、それにほとんどの体力を削り取られてしまった。

 帰りは駅まで母の車に乗せてもらおうと、心に決める。


「お父様のお家、立派ですね」

「ショウんとこ程じゃないけどな。土地は無駄にあるし」

 何十年も昔からある平屋建ての家屋は、開け放たれた玄関に〝忌中〟と書かれた紙が貼ってある。それだけで辺り一帯の雰囲気を、すっかり重くて暗いものに変えてしまっていた。

 全く別の場所に来てしまったようだが、幼い頃はよく弟と縁側で走り回ったものだ。


(そうだ、あいつも来てんだよな)

 父と暮らしていた弟が来ないはずがない。そう思うと、余計に足を踏み出すのが嫌になってしまった。

「行かないんですか?」

「いや、行くよ。行くけど……」


 本当は自分からではなくて、ここに立っているのを誰かに見つけてほしかった。

 あと十メートルも歩けば着くのに、見えない壁がそそり立っているかのように足が(すく)んでいる。

(やっぱ、来ない方が良かったのかな)

 今になって来たことを後悔していると、前方から馴染みのある声が聞こえた。


「ノゾミ? そんな所で何やってるの、早く中に入ったら?」

「え……」

 そちらに視線を向けると、土間に降りてきた母が(いぶか)しげにノゾミを見つめていた。

「遅いから駅まで迎えに行こうと思ってたのよ」

「あー……ごめん」


 結局駅から一時間近くかかってしまい、予定の時刻をかなり過ぎていたのだ。

 母に招かれて玄関をくぐると、ひとまず客間に荷物を置いて家の奥へと向かう。ミコトもちゃんと後から付いてきてくれた。

「お父さん、そこの部屋にいるから」

「ん……」

 母に示された部屋の(ふすま)に手をかける。


 一度だけ深呼吸をしてみたが、心の準備は要らなかった。

 そこに居るのが誰だか分かっているし、もう縁もゆかりも無い人だ。

 一つの亡骸があるだけ。


 ――の、はずだった。


「……チッ」

 襖を開けて、その存在に気付くや否や。ノゾミは忌々(いまいま)しげに舌打ちをしていた。

「悪い。ミコトはやっぱり、向こうに行っててくれ」

「ぁ、はい……」

 小声で告げるとミコトはそこから一歩退く。事態を把握したようだったが、ノゾミの気迫に圧倒されたようにも見えた。

 中に入って、少し乱暴に襖を閉める。


 その音に反応したのは、部屋の隅でうずくまっていた小柄な少年。


「――――ノゾ(にぃ)……?」





「久し振りだな――――キオ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ