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「そうですか。迷惑でないなら、良いんです」
ミコトは安心したように微笑んだ。大きな青い瞳に自分が映り込んでいる。空より深いその色に、引き込まれてしまいそうだ。
「ああ。ミコトは気を遣わなくていい」
逃げるようにして目を瞑り、また開く。瞬きと呼ぶには、少し長すぎる動作だった。
そしておもむろに鞄の中から携帯電話を取り出して、現在の時間を確認する。
「あと五分くらいしたら行くか」
「はい」
その後大した会話は無く、どちらかというと沈黙の方が多かった。それでも居心地の悪さは感じない。
ミコトと過ごしていると、沈黙も会話のうちだと思えてくるのだ。
山の麓にある木造の駅舎が、そんな静寂を引き立てていた。
……それから、何を考えていただろう。思い出せない。
自分がうたた寝をしていたのに気が付いたのは、その時だった。
(やば……俺、寝てた?)
覚醒すると同時に肩のあたりに重みを感じて、そちらを見やる。
その正体を認識したノゾミは、ミコトの名を呼ぼうとしていた口を噤んだ。
「っーー」
ミコトが頭の重さをこちらに預けるようにして寄りかかっていたからだ。いつの間にか、寄り添い合って互いの体重を支える体勢になっていた。
白い髪の毛が、ノゾミの手にも垂れている。
(寝てんのか……)
閉じられた眼と規則的な呼吸が、彼女が睡眠の中にいることを示していた。
その寝顔が気持ち良さそうなので起こすのが憚られる。だが既に予定の時刻を過ぎていたので、躊躇いつつもミコトに呼びかけた。
「ミコト? そろそろ行きたいんだけど……」
「ん……はぃ…」
案外ノゾミの声には早く気付いてくれて、ミコトはその重そうな瞼を開ける。
「済みません、寝ちゃいました」
「いや、俺もさっきまで寝てたみたいで」
ミコトはあくびを一つして、まだ眠たそうな眼を擦る。
まだ休ませてやりたいのは山々だが、最後に時計を見てからもう二十分程が経っている。暗くなる前に目的地に着きたかった。
「では、行きましょうか」
ミコトが立ち上がるのに合わせてノゾミも席を立ち、駅舎の外へ出た。




