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4-2-4

「は? 相手は死んでるんだぞ。どうやって確かめるんだ」

「生きてる人だって、何か知ってるかもしれないじゃないですか」

 ミコトまでこんなことを言い出すとは、と半ば呆れた気持ちで聞いていた。

「このままではノゾ君は、お父様と打ち()けられずに終わってしまいます。それじゃ駄目だと思うんです」


「何か勘違いしてるんじゃないのか? 俺はあの人に謝ってほしい訳でも、やり直したい訳でもない」

 むしろ、してほしいのはそんなことではない。

 過ぎ去ってしまった時を取り戻すのは不可能だ。(ゆえ)に、ノゾミの願望が叶えられることもない。

「そもそも、死んだ人と打ち解けるなんて無理だろ」

「そうですけど、ノゾ君はなぜ自分があのような扱いを受けたのか知りたくないのですか?」

「っ……」


 ノゾミは思わず言葉に詰まってしまった。幼い頃はよく、どうして弟ではなく自分ばかり父の嫌悪の対象になっているのか、と考えたからだ。だがそれも成長するに従って薄れていき、当たり前のこととして受け入れてしまっていた。もう、反抗する気にすらならなかったのだ。

 だから今更、父への執着や未練は湧いてこない。

 はずなのに。


「ーーそれで、過去を完全に断ち切れるのか」

 自分は未だ、父の呪縛にかかっているのかもしれない。両親が離婚した五年前で止まってしまっていた時間が、再び動き出している。

「ノゾ君がそうしたいのなら、出来るはずです」

「でも、ちゃんと過去と向き合わないといけないわよ」

「分かってる……分かってるよッ」


 知りたいのに、知りたくない。でも知らなければ、永遠にこの苦悩から逃れられないだろう。

「ノゾミ」

「ノゾ君」

「ああクソ、行くよ。行けばいいんだろ」

 自棄(やけ)になって言い放つが、二人は何やら満足そうな笑みを浮かべていた。


「よく言ったわね。ちゃんと確かめて来なさい。お父さんのことと、自分のこと」

 ミコトだけでも強く出られると断れないのに、そこにショウも加われば余計に()ねつけられないのも道理だ。

「でもいいのか? ショウにはせっかく来てもらったのに」

「アタシは何の問題もないわ。さっきも言ったでしょ、ムクロが殺人鬼じゃないことが分かっただけでも感謝してる――だから、ね?」


 ショウが微笑む。言葉には出さないものの、それが彼女なりの見送り方なのだろう。

 ノゾミは大きく息をついてから、目を細めて言った。

「――行ってくるよ」

 

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