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3-7-4

「ですが結局、ムクロのことは分からずじまいになってしまいましたね」

 ミコトがしゅんと肩を落とす。殺人鬼について調べることは、同時にムクロについての調査でもあったのだ。労力に見合わない結果に、多少なりともがっかりしたのだろう。


 だがそんな状況でも、ただ一つ確実に言えることは。

「まぁ、あいつとムクロが無関係だって判明しただけでも、良かったんじゃないか」

「そうですね。これでやっとショウにも報告ができます」

 確かに、ショウもムクロについてはかなり気になっているはずだ。その事実だけでも伝えた方が良いだろう。


 ノゾミは麦茶を(すす)って一息つくと、外から聞こえるサイレンの音に耳を傾けた。

「凄い音だな。あれだけの騒動なんだから、当然かもしれないけど」

 人が刺される瞬間を目の当たりにしたというのに、ノゾミは自分でも驚く程に落ち着いていた。あの女性には申し訳ないが、〝死〟を求めるノゾミにとって興味があるのは、他人の死よりも自らを殺してくれる存在だったから。


「ノゾ君はこの音、(うるさ)いと思いますか?」

「そりゃあ、こんな近所で鳴ってるんだから……」

 何か気に障ることでも言ってしまったのかと思い、ミコトの顔色を伺う。その視線に気付いているのかいないのか、ミコトは立ち上がるとベランダの方へと足を向けた。


「僕には、この街が泣いているように聞こえるんです」

 窓に手をつき、そこにそっと頬を寄せる仕草が、ノゾミの目に焼き付いた。

(街が……泣いている?)

 その不思議な表現が、理解出来るような出来ないような。とにかく、腑に落ちなかった。それなのにミコトの言葉は、ノゾミの心を明らかに侵食していく。


「彼は大勢の人を殺しました。たくさんの命が失われたんです。きっと殺された人の家族や友人だけでなく、彼を受け入れてしまったこの街も、今日のことを悔やんでいるのでしょう」

「――っ」

 なぜ。どうして。

 どうして、そんな優しいことが言えるのか。

 ノゾミの口はそれを形作りたかったのに、ただ息を呑むことしか出来なかった。ノゾミなんかよりも、ずっと命の(とうと)さを感じているからこそなのだろう。


 先程まで自分には関係が無いものとして、被害者や刺された女性への興味が失せきっていた自分が恥ずかしくなってくる。

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