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「一応聞くけど、この日は何したか覚えてるか?」
次にやって来たのは、長い沈黙。
「…………?」
かなり逡巡した後、ミコトはようやく口を開いた。
「何だか、その頃の記憶だけがすっぽり抜けているみたいで……なぜでしょう」
それはノゾミの方が知りたいくらいだが、ここで焦ってもどうしようもない。
「単に忘れてるのとは違うのか?」
「その事件のあたりを境に、前後の記憶が繋がらないような、変な違和感があるんです。忘れてるだけならこんな感じはしません」
「そうか……」
ノゾミもミコトと一緒に頭を抱え、その不思議な現象について考える。
いくつもの仮定を提案してみたが、どれもミコトが課す条件に当てはまらなかったようで。
「頭をぶつけて記憶喪失、とか」
「そっ、そんなことある訳ないです!」
あらぬ方向に話が飛んでしまいそうだったので、このあたりで打ち切ることにした。
「悪い。取りあえずこのことは置いといて、後でゆっくり思い出してくれ」
「はいっ! 頑張ります」
ミコトの努力が無事に実るよう祈りつつ、ノゾミはノートをぱらぱらとめくった。
半分ほどが過ぎたあたりで新聞記事の切り抜きを貼り付けたページは無くなり、殺人鬼の特徴を書き込んだところに行き着く。
そこには新聞以外にも、ニュースやインターネットで得た情報も含まれていた。
「今まであいつが何の目的で人を殺して、体の一部を切り落としていったのか分からなかったけど、さっきので少し明らかになったな」
「ええ。恐らく彼は本当に人を殺すことを愉しんでいる、快楽殺人鬼ですね」
「被害者の腕を持ち去ったのは――あいつ自身が喰べるためだな」
開いていたページに、二人で出した結論を書き込んでいく。“動機不明”の文字の上に二重線を引き、あの狂気に満ちた光景を思い出しながら上書きした。
「それから、あいつの中には二人分の人格がある」
「殺す者と喰べる者で、役割を分けているみたいでしたね」
大方これは、警察ですら知り得ないことだろう。犯人とあそこまで接近したノゾミ達だから、彼の本性に迫ることが出来たのだ。




