3-7-1 喧騒と静寂
「……帰るぞ」
短く告げると、ミコトは無言で頷いてノゾミの背中から離れる。
回り道になってしまうが、今日は大通りを通らずに家へ向かうことにした。
マンションに着く頃には近所はかなり騒々しくなっていて。ノゾミは部屋に入るなり、換気のために開けていた窓を全て閉めた。
蒸し暑い室内も、エアコンを入れればすぐに涼しくなるだろう。
早速それを実行すると、ごぉっという風の音が二人を包み込んだ。
「なあ、ミコト」
薄暗い部屋で、ノゾミは明かりも付けずに台所へと足を運ぶ。買ってきたものを整理するためだ。
ミコトはリビングで静かに正座をしていたが、お互いこのままではいけないと分かっている。いくら気まずい状況になってしまったとはいえ、どちらかが切り出さないことには始まらない。
冷蔵庫を開けながら、思い切って聞いてみた。
「さっきのあいつ、ミコトを前から知ってるみたいだったけど」
「僕は知りません。逢ったことも無いです」
「じゃあ、何であいつにお前が見える? 俺が死なないってことも、あいつは分かってた」
「…………」
ノゾミは食料品を全て冷蔵庫にしまってから、冷たい麦茶を二人分用意した。自分の素っ気ない言い方では、怒っている風に聞こえてしまうかもしれない。そう思ったから、少しでも空気を和らげたかったのだ。
ミコトが出て行ってしまった時のようなことは、もう繰り返したくない。
「さっきは悪かったな、怒鳴ったりして。ムクロのこと、早く正体を突き止めなくちゃって思ったら、つい」
ノゾミはローテーブルを挟んだミコトの反対側に腰を下ろして、麦茶を差し出した。
「いえ、そう思うのも当然ですよ。僕は気にしてませんから」
「そっか。なら良いんだけど」
まだ明かりをつけるには早いと思っていたのだが、沈みかけた夕陽では部屋を照らすには不十分だったようだ。それでも、電気をつければ外の暗さが目立ってしまうと思うと、もう少しこのままでいようという気になってしまう。
なぜだか、薄暗い方が話しやすかったのだ。




