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(やば……こっち来る)
さっと頭を引っ込めて完全にブロック塀の陰に身を隠すと、隣に居たミコトの手首を掴む。
「ミコト、逃げるぞ」
小声で言うと、ノゾミは有無を言わせずに走り出した。
「わっ、ノゾ君、待って下さい」
ミコトは落ちていた買い物袋を拾い上げ、前のめりになりながらも一緒に走る。一方ノゾミは早くこの場から離れることしか考えていなかった。
(なんだろ、あいつと逢ったらいけない気がする)
これが虫の知らせというやつなのだろう。全身で感じ取った不快感が、ここから逃げるよう命令を出しているのだ。
「大丈夫か、ミコト――ッ」
ノゾミは振り向き、後ろの様子を確認しようとして、見つけてしまった。
「ねぇ待ってよ。なんで逃げるのかなぁ」
「!」
T字路の中央に立つ黒い姿を。
後ろに広がる無惨な光景と、彼が背負う冷血さとは対照的に、その口元はうっすらと笑みを浮かべていて。それが余計に残酷に見え、思わず足を止めてしまう。
彼は近づくことはせず、ただ二人を見つめている。ノゾミも意を決して向き合うと、ミコトに自分の背後へ隠れるよう告げた。もちろん彼女を危険に晒したくなかったからだ。
「君達仲良いんだね、手まで繋いじゃって。恋人同士? それともただの友達かな?」
「い、今はそんなことどうでもいいだろ」
(こいつ、ミコトが見えてる……)
内心でやっぱり、と思うと同時に、場違いな質問に思わず動揺してしまう。上手く答えることが出来なかったが、ミコトとの関係をどう形容すべきか分からなかったのが正直なところだ。
けれど今は、それよりも大切なことがある。
「お前、ミコトが見えるのか」
「今更だね。見えるに決まってるでしょ。だから〝君達〟って言ったんだし」
彼の言う通り、改めて問うまでもなかったのかもしれない。それでも彼の口からその言葉を聞きたかったのだ。
「ならムクロって奴を知ってるか? ……いや、お前がムクロなのか?」
この、殺人鬼と対峙しているという状況は、危機であると共にまたと無いチャンスなのだ。ここまで来たからには彼とムクロの因果関係を確かめなければ。
はらはらしながら返事を待つが、彼はそんなノゾミににべも無く言い放つ。
「ムクロぉ? 誰それ」




